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中規模案件は準備が9割!5億円売却を目指す社長が売却前にすべきことリスト

「会社売却は準備が9割」——では、その“9割”とは何か?5億円でのM&A成功に必要な10の準備項目を徹底解説。

会社を売るという決断は、経営者人生の中でも最大級の意思決定です。
特に、企業価値5億円規模の中小企業においては、売却の成否がその後の人生を大きく左右します。

「そろそろ次の世代にバトンを渡したい」
「引退を見据えて現金化したい」
「成長のために大手と組みたい」

そう考えたとき、多くの社長が最初に直面するのが、「何から手をつければいいかわからない」という問題です。

実際、私がこれまで支援してきた現場でも、「思いつきで動いた結果、想定額より大幅に安く売ることになった」「交渉直前に財務上の不備が見つかり、買い手に撤退された」といったケースは少なくありません。

では、どうすれば5億円という目標を現実のものにできるのでしょうか?
その答えが、「準備」です。しかも、“戦略的な準備”。

本記事では、これからM&Aを検討する中小企業の社長に向けて、「5億円売却を成功させるための10の準備リスト」を具体的にお伝えします。
「今、何をやるべきか」を明確にし、納得のいくM\&Aを実現するための一助となれば幸いです。

この記事の監修者

谷口 友保
株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリー

1971年埼玉県上尾市生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業、同年公認会計士2次試験合格。翌年同学部経済学科を卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。1996年にM&A専門の株式会社レコフへ。2007年、株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリーを設立し代表取締役に就任。
代表者挨拶・経歴詳細はこちら

目次

なぜ「準備が9割」なのか?会社売却における成功の方程式

M&Aの成否は「売り出す前」に決まる

M&Aにおいては、買い手に出会ってからが勝負だと思われがちですが、実は逆です。
本当の勝負は、売りに出す“前”にすでに始まっています。

理由はシンプルです。
買い手が企業を見るのは、「見えるもの」だけだからです。
決算書、契約書、組織図、定款、株主構成、従業員情報、設備一覧——。
これらが整っていなければ、たとえ優良企業であっても「評価のしようがない」のです。

つまり、準備不足はそのまま“安く買い叩かれる理由”になり得るということ。
過去に、営業利益は毎年黒字だったある製造業の社長が、「書類の整理が後回しになってしまった」ことで、買い手候補から「管理体制が不安」と敬遠され、最終的に想定より30%安い価格で譲渡せざるを得なかったケースもあります。

売却は「情報戦」です。
武器(=資料や体制)が整っていなければ、戦う前から敗色濃厚となるのです。

よくある準備不足の落とし穴

「まだ売ると決めたわけじゃないから」
「相手が決まってからでいいだろう」

そう考えて準備を後回しにすると、後々“地雷”になります。

たとえば、以下のような問題が売却プロセスの途中で発覚し、取引が頓挫する例は枚挙にいとまがありません。

  • 簿外債務(未計上の借入や未払金)の存在
  • 役員貸付金や個人口座での取引
  • 名義株や株主間の対立
  • 経営者個人が提供している連帯保証
  • 属人化された業務やブラックボックス化した経営ノウハウ

これらは、すべて事前に手を打てば解決可能なものです。
しかし、“いざ売る”という段階で初めて気づくと、買い手側に「不信感」や「面倒くささ」を与えてしまい、交渉が難航する原因となります。

私自身も、買い手サイドのアドバイザーとして、準備が不十分な売り手企業を前に「これは時間とコストがかかりすぎる」と買収を断念した経験があります。
準備とは、相手に「安心」と「信用」を提供するプロセスなのです。

売却成功率を高める「逆算思考」とは?

では、何から始めればよいのでしょうか?
その答えが、「逆算思考」です。

「いつまでに売りたいか」からスケジュールを逆算し、そのゴールから今やるべきことを手前に引き寄せて設計する。

これが、売却成功の鉄則です。

例えば、「1年後にクロージングしたい」と考えるなら、以下のようなタイムラインが現実的です。

  • 0ヶ月目:準備開始(目的整理、専門家選定、資料収集)
  • 3ヶ月目:初期バリュエーション完了、ノンネーム資料作成
  • 4ヶ月目:買い手候補との接触開始
  • 6〜8ヶ月目:意向表明、基本合意、デューデリジェンス開始
  • 10〜12ヶ月目:最終契約・クロージング

逆算せずに動くと、資料不足や専門家不在のまま交渉が進み、「時間切れ」で妥協するリスクが高まります。
一方、早期に着手すれば、買い手の選択肢も増え、条件交渉にも余裕が生まれます。

つまり、逆算こそが“選択肢を広げる武器”なのです。

5億円で売るための「事前準備リスト10項目」

ここからは、私がこれまでM\&A支援を行ってきた中で、「これは必ず押さえてほしい」と感じた10の準備項目を一つずつ解説していきます。
どれも売却の成否に直結する実務ポイントばかりですので、ぜひチェックリストのように活用してください。

(1) 売却目的と方針を明確にする

まず最初にやるべきは、「なぜ売るのか?」をはっきりさせることです。
これが曖昧なままだと、途中で方針がぶれたり、買い手との意思疎通が噛み合わなくなります。

たとえば、

  • 後継者不在による事業承継
  • 創業者利潤の確保(キャッシュアウト)
  • 第二創業への布石(新たな挑戦の資金確保)
  • 業界再編・競争激化への備え

など、目的は人それぞれです。

この目的によって、選ぶべき買い手のタイプも変わりますし、譲渡後の社長の関わり方(残るのか退任するのか)も違ってきます。

ある社長は「社員を大切にしてくれる会社に引き継ぎたい」という強い思いから、上場企業よりも地方の同業企業を選びました。
その結果、条件面ではやや譲歩したものの、社員の雇用と文化が守られ、売却後の満足度は非常に高いものでした。

目的を明確にすることは、すべての意思決定の“軸”をつくることに他なりません。

(2) スケジュールを設計する

次に必要なのは、「いつまでに売りたいのか」というスケジュール感の設計です。
中規模のM&Aであれば、半年〜1年超が一般的です。

これを「急ぎでやりたい」と思っても、準備→バリュエーション→買い手探索→交渉→契約と、プロセスは多岐にわたるため、時間はかかります。

私の経験上、「早めに準備を始めた社長ほど、良い買い手と出会えて、希望に近い条件で売却できている」のが事実です。
逆に「半年以内に現金化したい」と焦った案件では、選択肢が限られ、不利な条件で妥協せざるを得ない場面も多く見てきました。

「来年の3月までにクロージングしたい」などのゴールを決め、それに向けて準備・交渉のマイルストーンを明確にすることが成功への近道です。

(3) 専門家を選定する(仲介会社・FA・弁護士・税理士)

M\&Aは、経営者一人では到底対応しきれない専門領域の塊です。
そのため、信頼できる専門家を早期にチームとして組むことが極めて重要です。

必要な専門家は以下の通りです。

  • 仲介会社またはFA(ファイナンシャル・アドバイザー):買い手探索と交渉支援
  • 弁護士:契約書チェックや法務リスクの検証
  • 税理士または会計士:スキームによる税務影響の試算、DD対応

ここで気をつけたいのが、「手数料だけで選ばない」ことです。
仲介会社の報酬相場は成功報酬で売却金額の5%前後(5億円なら約2,500万円)ですが、安さよりも「誰が担当するか」「どこまで支援してくれるか」が重要です。

実際、ある案件では「経験豊富な元メガバンク出身者」が担当するというだけで買い手側の信頼度が一気に高まり、交渉もスムーズに進みました。

選定時には、実績・得意分野・担当者の相性を必ず確認してください。

(4) 自社の現状分析と企業価値評価

「うちの会社はいくらで売れるのか?」という問いは、すべての社長に共通する最大の関心事でしょう。
ここで重要なのは、「自社の価値を他人の目線で客観的に見ること」です。

一般的な中小企業のバリュエーション方法としては、以下が使われます。

  • 年買法(のれんを含めた営業利益の数年分)
  • EBITDA倍率法(利払い前・税引前利益×業種別倍率)

たとえば、営業利益5,000万円の会社で、同業界の平均EBITDA倍率が7倍なら、「理論上の企業価値は3.5億円」となります。
しかし、これに加えて「自社の強み」「シナジー効果」「リスク」などを加味して調整されるため、実際の売却価格には幅があります。

そのためにも、現状の棚卸し——

  • 主力商品・サービスの収益構造
  • 競争優位性(独自技術・取引先・ブランド)
  • リスク要因(過度な依存先・社長個人への依存)

を整理することが欠かせません。
専門家によるバリュエーションレポートの取得は、交渉の武器になります。

(5) 必要資料の準備

M&Aプロセスにおいては、「どれだけ資料が整っているか」で買い手の評価が大きく変わると言っても過言ではありません。
買い手にとっては、会社の全貌を短期間で見極めなければならないため、提出資料=会社の信頼性の証明ともいえるのです。

以下は、最低限揃えておきたい主要な資料群です。

  • 財務関連:直近3〜5年分の決算書、月次試算表、資金繰り表、借入一覧
  • 税務関連:法人税申告書、納税証明書、固定資産税関連資料
  • 法務関連:登記簿謄本、定款、株主名簿、重要な契約書類(取引先、リース、不動産)
  • 人事・労務関連:従業員一覧、雇用契約書、就業規則、社会保険資料
  • 事業・営業関連:主要商品やサービスの概要、取引先別売上一覧、販路、許認可証明書

加えて、買い手向けに事業概要や経営方針をまとめた“ノンネームシート”や“IM(インフォメーション・メモランダム)”の作成も、初期段階で重要です。

私の支援した中堅製造業の案件では、「資料の整備状態が素晴らしい」と買い手が即断し、想定より1.5倍高い価格で成約したケースもありました。

資料準備は手間がかかりますが、それ以上に“信頼”という無形資産を創出する作業です。

(6) 財務・法務・事業の「身辺整理」

資料を整えると同時に、企業としての“見た目”も磨いておく必要があります。
これは、言い換えれば「リスクの除去」と「透明性の確保」です。

具体的には、以下のような項目を事前に整理しておくことが重要です。

  • 役員貸付金・借入金の処理(貸借対照表に残っていると評価が下がる)
  • 社長個人による連帯保証の解消・引き継ぎの可否確認
  • 名義株や休眠株主の整理(株主構成の明確化)
  • 属人業務の仕組み化(特定社員にしかできない業務をなくす)
  • 就業規則や雇用契約の整備(法的な労務リスクを減らす)

私が関わった案件で、社長が自分の個人口座を会社口座として使用していたため、「ガバナンスが効いていない」と判断され、買い手が撤退した事例がありました。

こうした“見えないリスク”が買い手にとっては最大の不安材料になります。
事前に第三者の目(FAや会計士)で点検しておくことで、「安心して買える会社」に一歩近づけるのです。

(7) 希望条件を整理する

M&Aは“価格交渉”だけではありません。

自社にとって譲れない条件をあらかじめ明確にしておくことが、後悔のない売却には不可欠です。

整理すべき主な条件は以下の通りです。

  • 希望金額と支払い方法(一括 or 分割、株式交換など)
  • 従業員の雇用維持(最低限の雇用継続期間や待遇維持の希望)
  • 自社ブランドや取引先の維持
  • 社長の残留希望有無・期間(“残って経営に関わりたい”か、“すぐに引退したい”か)
  • 譲渡後のオフィスや工場の利用継続可否

これらを事前に文書化しておくことで、交渉段階でぶれない判断軸となります。
また、相手にも“自分たちが何を大切にしているか”を明確に伝えられます。

交渉が進むにつれ、「もう断れない」「言い出しにくい」といった心理が働くため、冷静に判断できる“今”の段階で希望を整理しておくことが極めて重要です。

(8) 買い手候補を想定する

「買い手なんて、仲介会社が見つけてくれるだろう」と他人任せにするのは危険です。
自社がどのような買い手にとって魅力的か、あるいは“譲ってはいけない買い手”はどこか、事前に想定しておくべきです。

買い手の主なタイプと特徴は以下の通りです。

種別特徴とメリット注意点
同業(水平統合)技術や顧客基盤の相乗効果、統合が容易社風の衝突、吸収合併の可能性
異業種(多角化)新市場進出による拡大意欲が強い理解不足による誤解も
投資ファンド財務体質の強化、再成長戦略を描いてくれる数年で売却前提、短期志向
海外企業高評価の可能性、市場拡大チャンス言語・文化面での摩擦

実際、私が支援したIT企業の案件では、最終的に外資系ファンドに売却したものの、社員が大量離職するという事態が起きました。
「雇用維持」を最優先するなら、同業や国内企業のほうがフィットする場合もあるのです。

理想の買い手像を描くことは、“誰に会社を託したいか”という価値観を明確にする作業でもあります。

(9) 交渉と契約での注意点

準備を整え、買い手が現れたら、いよいよ交渉と契約フェーズに進みます。
この段階で重要なのは、単に「いくらで売るか」ではなく、「どのような条件で売るか」を精緻に詰めることです。

特に注意したい契約上のポイントは、以下の通りです。

  1. 表明保証(Representations and Warranties)
    → 売り手が「自社に重大な法的・財務リスクがない」と保証する条項です。
    → 仮に売却後に簿外債務などが発覚すれば、損害賠償や契約解除の対象になりかねません
  2. 競業避止義務(Non-Compete Clause)
    → 売却後、一定期間・地域で同業を営まないという約束。
    → とくに創業者や経営者に適用されるケースが多く、「次の事業」に制約が出ることも。
  3. ロックアップ条項
    → 売却後も一定期間、経営に関与する義務があるという内容。
    → 「売ってすぐに引退したい」場合は、事前にこの点を交渉材料としておきましょう。

これらの契約条項は、一つ一つの文言が極めて重要です。
「弁護士は後からつければいい」ではなく、早い段階から契約書のドラフトや協議に関わってもらうべきです。

実際、表明保証の範囲を曖昧にしたことで、売却から2年後に買い手が損害賠償を請求してきたケースもあります。
これはM\&Aにおける“後出しリスク”の代表例です。
契約は「最後の落とし穴」になりうる領域であることを、常に意識してください。

(10) 売却後の備え

クロージングを迎えた後にも、社長としてやるべきことは多く残されています。
特に以下の3点は、「事前に想定しておくべき売却後の対応」です。

① 譲渡益への課税と納税資金の確保

売却により得た資金には、約20.315%の譲渡所得税が課せられます。
例えば、5億円で株式を売却した場合、約1億円の納税が発生します(取得費や経費を除いた利益に対して)。

納税スケジュール(通常は翌年の3月)を見据えて、資金管理をしておく必要があります。
また、譲渡後に節税策を講じようとしても、すでに“手遅れ”というケースが多いため、売却前に税理士と綿密に相談することが大切です。

② 社員・取引先・金融機関への説明

売却の影響を最も強く受けるのが、日々の業務を支える社員たちです。
「突然知らされた」「会社の方針がわからなくなった」といった不安が広がれば、モチベーション低下や離職リスクに直結します。

そのため、クロージング前後での丁寧な説明とコミュニケーションが欠かせません。

  • 社員説明会を実施し、雇用や待遇がどうなるかを明示
  • 新経営陣の紹介と、社長としての感謝の言葉を伝える
  • 主要取引先には個別での説明を行い、関係継続の意思を示す

ある老舗企業では、売却後に社長が「第二の創業」ではなく「第二の継承」だと語り、社員と買い手の双方から大きな信頼を得ました。
売却後の信頼構築は、“円満なバトンリレー”の鍵なのです。

③ 顧問契約・名誉職での関与

売却後も一定期間、顧問や名誉会長として会社に関与するケースは多く見られます。
これは単に体裁の問題ではなく、買い手にとってのリスク低減(いざという時に聞ける)という側面もあります。

どの程度関与するかは、契約で明確にしておく必要があります。
一方で「いつまでも口を出してしまう」ような関係性では、新体制が育たず、トラブルの元にもなります。

あくまで、“支える”立場としての関与を想定し、売却の「その後」を想像しながら契約内容を調整することが望ましいです。

株式譲渡 vs 事業譲渡:5億円規模ならどちらが有利?

売却スキームの選択は、税務・手続き・交渉範囲に大きく影響します。
ここでは、「5億円規模の中小企業」において、株式譲渡と事業譲渡のどちらが適しているかを、ケース別に解説します。

株式譲渡の特徴とメリット

株式譲渡は、会社の“箱ごと”買ってもらうスキームです。
株主が株式を買い手に譲渡するだけなので、取引の対象は「株主間の契約」のみとなり、実務的には非常にシンプルです。

メリットは以下の通りです。

  • 株式を売るだけで会社の全体を引き継げる
  • 資産・負債・取引先との契約も基本的にそのまま継続
  • 税務上の取扱いが明確(個人譲渡所得扱い、約20.315%の課税)

実際、中小企業M&Aの約9割以上が株式譲渡というデータもあります。
その背景には、「手続きの簡便さ」と「税制上の有利さ」があるのです。

事業譲渡の特徴と使いどころ

一方の事業譲渡は、会社全体ではなく「特定の事業や資産だけを譲渡する」スキームです。
買い手は、譲り受けたい事業・設備・契約・従業員を個別に選んで取得できるため、リスクを限定したい買い手にとっては柔軟性の高い方法といえます。

メリットとしては、

  • 買い手が必要な部分だけを選択的に引き継げる
  • 売り手にとっても、「一部だけを売却し、本体は継続」など柔軟な設計が可能
  • 不採算事業の切り離しや、グループ再編の一環としても有効

ただし、デメリットも少なくありません。
中小企業にとっては、事業譲渡は想像以上に“煩雑”で、“人手と時間”がかかるスキームなのです。

注意点は以下の通りです。

  • 取引ごとに契約の「個別承継」が必要(賃貸契約、顧客契約、雇用契約など)
  • 所有権移転には登録・登記手続きが伴う
  • 売却益は法人税対象となる(個人の譲渡益課税より重い)

実務上、「顧客との契約が全て“名義変更不可”だったため、事業譲渡を断念した」という例もあります。
特に5億円規模の売却では、「法人全体を手間なく引き継ぎたい」という買い手ニーズと一致することが多く、株式譲渡の方がスムーズです。

ケース別の選び方と注意点

では、自社にとってどちらが適しているのでしょうか?
以下のような視点で検討してみてください。

比較項目株式譲渡事業譲渡
手続きの簡便さ◎(株主変更のみ)△(契約・資産・雇用ごとに個別対応)
税務負担○(譲渡益に対し約20.315%)△(法人税、消費税、登録免許税など)
リスクの範囲△(過去の負債も引継ぎ)◎(譲受範囲を限定できる)
企業継続性◎(社名・取引・雇用も継続しやすい)△(契約の再締結が必要)
用途・向き不向き企業全体の売却、引退型M\&Aなど一部事業のみの売却、グループ内再編等

基本的には、5億円前後の「全社売却」を目指す中小企業であれば、株式譲渡が第一選択になることが多いです。
ただし、工場だけを切り離したい、赤字事業だけを譲り渡したいという場合は、事業譲渡が有効です。

また、買い手がどのようなスキームを希望しているかによっても選択は変わります。
いずれにしても、初期段階で税理士やFAと共に税務・法務面の影響をシミュレーションすることが必須です。

M&Aで“高く売れる会社”の条件とは?

では最後に、「そもそも、どうすれば自社の企業価値を高められるのか?」という視点で、買い手が高評価を下す企業の共通点を見ていきましょう。
これは単なる“見せ方”の問題ではなく、売却成功後も成長を続ける会社に共通する根本的な強みです。

社長依存からの脱却

M&Aでは、「この会社は社長がいないと回らないのでは?」という印象を持たれると、それだけで価値が大きく下がります。
買い手は「自分たちが経営を引き継げるか」に不安を持つためです。

そのため、「社長が不在でも安定して利益を生み出せる体制づくり」が非常に重要です。

具体的には、

  • 権限委譲と幹部の育成(No.2の存在)
  • 属人化された業務のマニュアル化
  • KPI・予算管理などの仕組み化
  • 組織図・業務フローの見える化

私が支援した印刷会社では、社長が「現場には一切関与しない体制」を構築しており、買い手は「すぐにでも引き継げる」と判断し、想定価格の1.2倍で成約しました。
これは、単なる「値付け」ではなく、「経営が継続できる確信」によるものです。

将来の成長ストーリーが語れるか

買い手にとって、企業の購入は「投資」です。
つまり、「この会社を買えば、将来どれだけ成長できるか」が明確であればあるほど、企業価値は高まります。

そのためには、以下のような「将来像」が必要です。

  • 中期経営計画や予測PLの提示
  • 新規事業や海外展開の構想
  • 業界トレンドに即したビジネスモデル転換の準備
  • 顧客層・エリアの拡大余地

成長ストーリーが明確であれば、買い手は「今は3億円でも、数年で10億円の価値になる」と評価することもあります。
これは株式投資と同じ「将来の利益の先取り」なのです。

信頼と整備された内部体制

最後に、どんなに利益が出ている会社でも、「内部がグチャグチャ」では高く売れません。

買い手が不安を感じる典型例は次の通りです。

  • 紙ベースの経理、エクセルだらけの業務管理
  • 就業規則や契約書が未整備
  • 取引先との契約が口約束
  • 業績の管理が「社長の頭の中」だけにある

こうした企業は、「リスクの塊」に見えるため、買い手は「買収後に整備コストがかかる」としてディスカウントを提示します。

逆に、内部体制が整っているだけで、「この会社は管理が行き届いていて信頼できる」と評価され、数千万円単位で価格が上がることも珍しくありません。

よくある質問(FAQ)

これまで多くの経営者の方々と売却準備を進めてきた中で、特に頻度の高かったご質問をピックアップし、簡潔にお答えします。
初期段階の疑問を解消することが、スムーズな一歩目につながります。

Q: 自社は本当に5億円で売れるのか?

A: 目安としては、営業利益×業界平均のEBITDA倍率+純資産で大まかな企業価値が算出できます。

例えば、営業利益5,000万円、業界倍率7倍、純資産1億円とすれば、

5,000万円 × 7倍 + 1億円 = 4.5億円

そこにシナジーや成長期待、リスク調整を加えて最終的な価格が決まります。
より正確な評価は、FAや会計士によるバリュエーションレポートで行うのが望ましいです。

Q: 仲介手数料や税金はいくらかかる?

A: 仲介手数料は売却金額の5%前後が相場です(5億円なら約2,500万円)。
また、株式譲渡の場合の税金(譲渡所得税)は、おおむね20.315%です。

たとえば、譲渡益が4億円あれば、約8,100万円の税金負担となります。

そのため、税務面の最適化(譲渡前の持株整理や退職金活用)も、専門家と共に事前に検討しておくべきです。

Q: 売却までにどれくらい時間がかかる?

A: 一般的には、6ヶ月〜1年が標準的なスケジュールです。
準備期間だけでも最低3ヶ月は必要となるため、売却を意識した時点からすぐに動き始めるのが理想です。

早めに準備を進めることで、より多くの買い手と接点を持ち、条件交渉にも余裕が生まれます。

Q: 売却後、社員や取引先への影響は?

A: 売却後の影響は、社長の対応次第で大きく変わります。
特に従業員には「給与・待遇・職場環境は変わるのか?」という不安があるため、早い段階で説明し、今後の展望を具体的に伝えることが重要です。

また、主要取引先には個別説明の場を設け、信頼関係の継続意思を示すことが欠かせません。

Q: 買い手が現れなかった場合の対処法は?

A: 希望条件が厳しすぎたり、情報開示に不備がある場合、買い手が現れないこともあります。
その場合、以下のような対応策が有効です。

  • 売却価格や希望条件の見直し
  • 買い手候補のターゲット再設定(異業種・海外など)
  • 仲介会社やFAの変更
  • 一定期間の仕組み化・財務改善後の再チャレンジ

「今すぐ売る」ことにこだわらず、1〜2年をかけて“売れる会社づくり”に取り組むことも選択肢です。

まとめ

会社売却とは、単なる価格交渉や書類作業ではありません。
それは、社長としての「人生の節目」に他ならず、会社というバトンを誰にどう渡すか——その覚悟と準備が問われるプロセスです。

5億円という目標を実現するには、情報と準備の質がすべてを左右します。
「準備が9割」という言葉の通り、成否はすでに“交渉の前”に決まっているのです。

本記事で紹介した10のチェックポイントは、私自身が数多くの現場で痛感してきた、売却成功の原則です。
いま取り組める準備から始めてみてください。
きっと、半年後・1年後の景色が変わって見えるはずです。

そして何より、自社の想いや社員の未来を、安心して託せる相手と出会うために。
あなたのその第一歩を、私は心から応援しています。

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この記事を書いた人

中小企業のM&A、特に5億円規模の取引において、高橋健一は独立系コンサルタントとして揺るぎない存在感を放っている。大手金融機関でのキャリアから独立し、現在は「M&A 5億の扉」の専門家として、売り手経営者の立場に立った情報発信と助言を行う。

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