「とりあえず大手」は危険!5億円超M&Aで大手仲介会社を選ぶメリットと致命的なデメリット

5億円を超える規模のM&Aは、経営者にとって人生を賭けた一大決心です。その重要なパートナー選びで、「知名度があるから」と安易に大手M&A仲介会社に相談しようと考えていませんか?

実はその「とりあえず大手」という選択が、思わぬ落とし穴になる可能性があります。

本記事では、特定の仲介会社に偏らない客観的な視点から、5億円超のM&Aで大手仲介会社を選ぶメリットと、特に注意すべき「致命的なデメリット」を徹底解説します。

【この記事の結論】大手M&A仲介のメリット・デメリット

5億円規模のM&Aで大手仲介会社を選ぶ際は、「とりあえず大手だから安心」と考えるのは危険です。メリットと、特に注意すべきデメリットを理解し、慎重に判断しましょう。

項目内容
3つのメリット1. 圧倒的な情報網:豊富な買い手候補と出会える可能性がある。
2. 実績と標準化:手続きがスムーズに進む安心感がある。
3. ブランド力:対外的な信用を得やすい。
4つの致命的なデメリット1. 利益相反のリスク:売り手の利益が最大化されない可能性がある。
2. 担当者の経験格差:エース級は大型案件につき、経験の浅い担当者になる恐れがある。
3. 高額な手数料:「最低手数料(1,500〜2,500万円)」の存在で割高になる場合がある。
4. 柔軟性の欠如:画一的なプロセスで、個別の事情を汲んでもらえない可能性がある。
記事執筆者:高橋健一
中小企業のM&A、特に5億円規模の取引において、高橋健一は独立系コンサルタントとして揺るぎない存在感を放っている。大手金融機関でのキャリアから独立し、現在は「M&A 5億の扉」の専門家として、売り手経営者の立場に立った情報発信と助言を行う。
 
監修兼編集者:谷口友保
株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリー
1971年埼玉県上尾市生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業、同年公認会計士2次試験合格。翌年同学部経済学科を卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。1996年にM&A専門の株式会社レコフへ。2007年、株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリーを設立し代表取締役に就任。
目次

なぜ5億円超のM&Aで「とりあえず大手」が危険なのか?

では、なぜ特に5億円規模のM&Aにおいて、「とりあえず大手」という選択が危険を伴うのでしょうか?それには大きく3つの構造的な理由が存在します。

なぜ5億円超のM&Aで「とりあえず大手」が危険なのか?

経営者が陥りがちな「大手なら安心」という思い込み

まず、多くの経営者が「大手なら安心だ」というブランドイメージに頼ってしまう傾向があります。テレビCMや新聞広告で目にする有名企業であれば、間違いがないだろうと考えるのは自然なことです。

しかし、M&Aの成功は会社の看板の大きさで決まるわけではありません。むしろ、実際にあなたの会社の担当者となる個人の力量や、経営者であるあなたとの相性に大きく左右されるのです。私が現場で見てきた中でも、会社のブランド力と担当者の熱意・能力が比例しないケースは数多く存在しました。

5億円規模の案件が大手の中で「埋もれてしまう」リスク

大手M&A仲介会社が日々取り扱う案件は、数十億、時には数百億円規模のものも珍しくありません。これは何を意味するでしょうか?

結論から言えば、あなたの5億円規模の案件が、社内で「優先度の低い案件」として扱われてしまうリスクがあるのです。大手金融機関の内部事情をお話しすると、収益性の高い大型案件には、経験豊富なエース級の人材が投入されるのが常です。その結果、比較的小規模な案件には、経験の浅い若手担当者が割り振られる可能性が高まります。

もちろん若手でも優秀な方はいますが、複雑な交渉や難易度の高い企業価値評価において、経験の差が結果に直結することは否定できません。

「両手取引」の構造がもたらす潜在的な利益相反

これはM&A仲介業界の構造的な問題ですが、多くの仲介会社は「両手取引」〈※1〉というビジネスモデルを採用しています。

【用語解説】※1 両手取引(仲介)
売り手と買い手の双方と契約し、双方から手数料を得る形態のこと。M&Aの成立を円滑に進める側面がある一方、売り手と買い手の利益が相反する場面で、仲介者の立場が中立でなくなるリスクが指摘されています。

このモデルでは、仲介会社は「M&Aを成立させること」が手数料を得るための絶対条件となります。そのため、必ずしも「売り手の利益を最大化すること」が最優先事項にならない可能性があるのです。

特に、今後も別の案件を紹介してくれる可能性のある買い手(例えば、M&Aによる拡大戦略を掲げる上場企業など)と、今回一度きりの取引となる売り手とでは、どちらの意向が優先されやすいかは想像に難くありません。この利益相反のリスクは、M&A専門家を選ぶ上で最も注意すべき点の一つです。

もちろん存在する!大手M&A仲介会社を選ぶ3つのメリット

もちろん、大手仲介会社を選ぶことにはデメリットばかりではありません。特に以下の3点は、他にはない大きなメリットと言えるでしょう。

1. 圧倒的な情報網による豊富な買い手候補

大手仲介会社が持つ最大の強みは、その広範なネットワークです。長年の活動で蓄積された買い手候補企業のデータベースは膨大で、多様な業種・規模の候補先とマッチングできる可能性を秘めています。

自社だけでは到底アプローチできないような、意外な優良企業と出会えるチャンスがあるのは、大手ならではの魅力です。

2. 蓄積された実績と標準化されたプロセス

数多くのM&Aを成功させてきた実績は、信頼性の証です。M&Aのプロセスは非常に複雑ですが、大手では手続きが体系化・標準化されており、契約書の雛形なども整備されています。

これにより、M&Aの進行がスムーズになり、経営者は本業に集中しやすいというメリットがあります。初めてM&Aを行う経営者にとっては、この安心感は大きいかもしれません。

3. ブランド力による社会的信用と安心感

「大手仲介会社がついている」という事実は、取引相手や金融機関からの社会的な信用を得やすくなる側面があります。特に、買い手候補が慎重な姿勢を見せた場合でも、大手の看板が交渉を円滑に進める一助となることがあります。

5億円超M&Aで顕在化する、大手仲介の「致命的な」デメリット4選

メリットがある一方で、5億円規模のM&Aでは、これから挙げるデメリットがより深刻な問題として顕在化しやすくなります。

1. 利益相反のリスク:あなたの利益は本当に最大化されているか?

先ほども触れた「両手取引」における利益相反の問題をさらに深掘りします。仲介会社が成約を急ぐあまり、買い手からの厳しい値下げ交渉に、売り手経営者を説得して安易に応じてしまうケースは少なくありません。

「この条件を逃すと、次はいつ買い手が見つかるかわかりませんよ」といったセールストークで決断を迫られ、不本意な条件で契約してしまった、という話は私が独立後にもよく耳にします。

本来であれば、より良い条件を提示してくれる別の買い手候補を粘り強く探すべき場面でも、手間を惜しんで目の前のディールをまとめようとするインセンティブが働きやすいのです。

この問題は非常に根深く、国も問題視しています。中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン」の最新版(2024年8月改訂)では、仲介者が特定の相手方を不当に優遇すること(リピーター優遇など)を禁止する規定が盛り込まれるなど、対策が強化されつつあります。

2. 担当者の経験格差:エースは誰のために動くのか?

これも前述しましたが、大手仲介会社のエース級の人材は、より手数料収入の大きい大型案件に集中する傾向があります。あなたの会社の担当者が、M&Aの実務経験がまだ2〜3年目の若手である可能性は十分に考えられます。

担当者の経験不足は、企業価値評価(バリュエーション)の場面で特に顕著に表れます。あなたの会社の持つ技術力やブランド、顧客基盤といった「見えない価値」を適切に評価し、交渉の場で買い手側に理論的に説明できなければ、足元を見られた価格で買いたたかれてしまうリスクが高まります。

3. 高額な手数料体系:「最低手数料」の罠

M&A仲介の手数料は、一般的に「レーマン方式」という成功報酬体系で計算されます。 これは譲渡価額に応じて手数料率が変動する仕組みです。

【レーマン方式の一般的な料率例】

  • 譲渡価額5億円以下の部分:5%
  • 5億円超10億円以下の部分:4%
  • 10億円超50億円以下の部分:3%

例えば、譲渡価額がちょうど5億円だった場合、手数料は「5億円 × 5% = 2,500万円」となります。しかし、注意すべきは「最低手数料」の存在です。多くの大手仲介会社では、1,500万〜2,500万円程度の最低手数料が設定されています。

仮に、交渉の結果、譲渡価額が3億円になったとしても、最低手数料が2,000万円であれば、2,000万円を支払う必要があります。この場合、実質的な手数料率は約6.7%となり、料率表よりもかなり割高になってしまうのです。

さらに注意したいのが、手数料の計算基準です。売り手にとって最も有利なのは「株式価値」を基準とする方式ですが、中には「移動総資産(株式価値+負債総額)」を基準とする会社もあります。負債の多い会社の場合、後者の方式だと手数料が著しく高額になるため、契約前の確認は必須です。

4. 柔軟性の欠如:画一的なプロセスが合わないケース

メリットとして挙げた「標準化されたプロセス」は、裏を返せば「柔軟性の欠如」につながります。M&Aは一つとして同じ案件はありません。あなたの会社が持つ独自の企業文化や、従業員への想い、事業の特殊性などを十分に汲み取ってもらえない可能性があります。

私がかつて関わったある老舗企業では、創業家が「従業員の雇用維持」を最優先事項としていました。しかし、大手仲介の担当者は効率を重視するあまり、その想いを買い手候補に十分に伝えきれず、条件面ばかりを優先した結果、交渉が破談になりかけたことがありました。画一的な進め方が、かえってM&Aの成功を遠ざけてしまうこともあるのです。

大手だけが選択肢ではない!知っておくべきM&A専門家の種類

ここまで読んで、「では、どこに相談すればいいのか?」と思われたかもしれません。幸い、M&Aの専門家は大手仲介会社だけではありません。それぞれの特徴を理解し、自社に合った選択肢を検討することが重要です。

FA(ファイナンシャル・アドバイザー):あなたの利益だけを追求する味方

FAは、売り手か買い手のどちらか一方とのみ契約し、その依頼者の利益最大化だけを追求する専門家です。仲介(両手取引)とは、この立ち位置が根本的に異なります。

利益相反のリスクがないため、交渉が複雑化しそうな場合や、少しでも高く会社を売りたいと考える場合には、FAが非常に心強い味方となります。

独立系M&Aブティック:小回りが利き、専門性が高い

特定の業界(IT、医療、製造業など)や、特定の規模のM&Aに特化した専門家集団です。大手にはない機動力と柔軟性を持ち、経営者一人ひとりに寄り添った丁寧なサポートが期待できます。

私のような独立系のコンサルタントもこのカテゴリに含まれますが、それぞれの得意分野を見極めることが重要です。

事業承継・引継ぎ支援センター:公的機関という安心感

事業承継・引継ぎ支援センターは国が全国47都道府県に設置している公的な相談窓口です。最大のメリットは、中立的な立場で無料で相談に乗ってくれること。特定の業者を勧められることもありません。

2023年度には過去最高となる2,023件のM&Aを成約させるなど、近年その役割はますます重要になっています。 まずは情報収集から始めたい、という経営者にとっては最適な最初の相談相手と言えるでしょう。

後悔しないために!自社に最適なM&A専門家を見極める5つのチェックポイント

では、最後に、あなたにとって最高のパートナーを見つけるための具体的なチェックポイントを5つご紹介します。

1. 契約形態は「仲介」か「FA(アドバイザリー)」か?

まず、専門家がどちらの立場であなたを支援するのかを明確に確認しましょう。円滑な成約を重視するなら「仲介」、自社の利益最大化を徹底的に追求したいなら「FA」が適しています。どちらが良い悪いではなく、あなたの目的と照らし合わせて判断することが重要です。

2. 担当者の実績と専門性、そして相性は良いか?

会社の看板ではなく、「担当者個人」をしっかり見てください。特に、あなたの会社と同規模・同業種のM&Aを手がけた実績があるかは必ず質問しましょう。そして何より、面談を通じて「この人になら会社の未来を託せる」と心から思えるか、その相性を大切にしてください。

3. 手数料体系は明確で、納得できるものか?

契約書にサインする前に、手数料体系を隅々まで確認してください。成功報酬の計算基準(株式価値か、移動総資産か)、着手金や中間金の有無、そして最低手数料の金額。少しでも不明瞭な点があれば、遠慮なく質問し、納得できるまで説明を求めましょう。

4. あなたの会社の「見えない価値」を理解しようとしているか?

「情報こそが経営者の武器」というのが私の信条ですが、それは数字だけの情報ではありません。財務諸表には表れない、あなたの会社が長年培ってきた企業文化、技術力、顧客との信頼関係といった「見えない価値」を正しく評価し、それを買い手候補に情熱を持って伝えてくれる専門家こそが、真のパートナーです。

5. セカンドオピニオンを快く受け入れる姿勢があるか?

1社の意見を鵜呑みにするのは非常に危険です。複数の専門家から話を聞き、多角的な視点を持つことを強くお勧めします。その際に、「他社の意見も聞いてみたい」と伝えたときの相手の反応を見てみましょう。誠実な専門家であれば、セカンドオピニオンを求めるあなたの姿勢を尊重してくれるはずです。

よくある質問(FAQ)

Q: 5億円のM&Aだと、大手仲介会社の手数料はいくらくらいですか?

A: 一般的に「レーマン方式」で計算され、5億円以下の部分には5%の手数料率が適用されることが多いです。これだけで2,500万円になります。

ただし、多くの会社で1,500万〜2,500万円程度の「最低手数料」が設定されているため、譲渡価額が5億円を下回っても、この最低手数料額が請求される可能性があります。手数料の計算基準によっても総額は大きく変わるため、必ず個別の契約で確認が必要です。

Q: 仲介会社との契約で、特に注意すべき点は何ですか?

A: 「専任契約」の期間と内容です。一度契約すると、他の専門家に相談できなくなる期間(通常6ヶ月〜1年)が定められていることがほとんどです。契約期間が不当に長くないか、また、やむを得ず契約を解除する場合の条件はどうなっているかを事前にしっかり確認することが極めて重要です。

Q: FA(ファイナンシャル・アドバイザー)はどこで探せばよいですか?

A: FAを専門とするM&Aブティックや、大手証券会社・銀行の投資銀行部門などが挙げられます。また、私のような独立系のコンサルタントもFAとして活動しています。まずはWebサイトで情報を集めたり、信頼できる経営者仲間や顧問税理士に、評判の良い専門家がいないか相談してみるのも一つの有効な方法です。

Q: 大手仲介会社の担当者が若手だった場合、変更してもらうことは可能ですか?

A: 可能です。M&Aは会社の未来を左右する極めて重要な取引ですので、担当者の経験や能力、あるいは相性に不安を感じた場合は、遠慮なく担当変更を申し出るべきです。その際は、感情的にならず「当社の事業の特殊性を考えると、より経験豊富な方にお願いしたい」など、具体的な理由を添えて丁重に依頼するのが、角を立てずに要望を伝えるコツです。

Q: 「両手取引」は違法ではないのですか?

A: 日本の法律では、M&A仲介における両手取引自体は違法ではありません。不動産仲介などでも一般的に行われています。しかし、本記事で解説したように、構造的に利益相反が起こりやすいという問題点が指摘されており、売り手である経営者はそのリスクを十分に理解した上で、仲介会社と向き合う必要があります。

まとめ

5億円超のM&Aにおいて、「とりあえず大手」という選択がいかに危険を伴うか、ご理解いただけたでしょうか。

大手仲介会社には確かにメリットもありますが、その一方で、特にこの規模の案件では「利益相反」「担当者の経験格差」「割高な手数料」といった致命的なデメリットが顕在化しやすいのも事実です。

最も重要なのは、会社の規模や知名度だけで判断せず、自社の状況と目的に最も適した専門家を、ご自身の目で見極めることです。そのためには、まず「情報」という武器を持つことが不可欠です。

この記事で得た知識を元に、複数の専門家と面談し、手数料体系や担当者の実績を比較検討してみてください。そして、あなたの会社の価値を真に理解し、利益の最大化のために汗をかいてくれる信頼できるパートナーを見つけ出してください。

あなたの会社の輝かしい未来に向けた、後悔のない選択を心から応援しています。

信頼できるM&Aパートナーをお探しの方へ

M&Aは経営者にとって一生に一度の重要な意思決定です。成功のためには、豊富な経験と確かな実績を持つ信頼できるパートナーの存在が不可欠です。

株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリーの谷口友保代表は、東京大学経済学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)、M&A専門コンサルティング会社での豊富な経験を経て、2007年に同社を設立。代表者が全案件を直接担当する体制により、一貫した高品質なサービスを提供しています。

同社では、企業価値評価から交渉戦略の立案、クロージングまでを総合的にサポート。中堅・中小企業のM&Aにおいて、経営者に寄り添った仲介サービスで数多くの成功実績を積み重ねています。

M&Aをご検討の経営者の方は、ぜひ無料相談をご利用ください。代表者が直接対応し、貴社の状況に応じた具体的なアドバイスを提供いたします。

※本記事は情報提供を目的としており、特定のサービスの推奨を行うものではありません。M&Aに関する意思決定は、ご自身の状況に応じて慎重にご判断ください。

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