M&Aの着手金は払うべき?完全成功報酬との違いと賢い選択

M&Aによる事業承継や成長戦略を考える経営者にとって、最初の関門となるのが「M&A仲介会社選び」です。特にその料金体系、とりわけ「着手金」を支払うべきか否かは、多くの経営者が頭を悩ませる問題でしょう。

「初期費用は抑えたいが、安かろう悪かろうでは困る」
「着手金を払ってでも、手厚いサポートを受けた方が良いのか」

本記事では、特定の金融機関や仲介会社に属さない完全に中立な立場の専門家として、この問いに明確な答えを提示します。

単なる費用比較ではなく、M&Aの成功確率や最終的な納得感を左右する「着手金の本質的な価値」と「完全成功報酬制の隠れたリスク」を解き明かし、貴社にとっての「賢い選択」をサポートすることをお約束します。

【この記事の結論】M&Aの着手金 vs 完全成功報酬 どっちを選ぶ?

M&A仲介会社の料金体系で悩む経営者様向けに、2つの主要なプラン「着手金あり」と「完全成功報酬」のポイントを比較します。

比較項目着手金ありプラン完全成功報酬プラン
初期費用発生する(相場:50万~200万円)0円
特徴M&Aの成功に向けた質の高い事前準備が期待でき、仲介会社との強固な関係を築きやすい。初期リスクはないが、仲介会社の関与度が低くなったり、「売れやすい案件」が優先されたりするリスクがある。
成功報酬率標準的割高な傾向がある
向いている企業M&Aの成功確率を最大限高めたい、手厚いサポートを望む企業。初期費用を極力抑えたい、または比較的成約しやすい案件を持つ企業。
記事執筆者:高橋健一
中小企業のM&A、特に5億円規模の取引において、高橋健一は独立系コンサルタントとして揺るぎない存在感を放っている。大手金融機関でのキャリアから独立し、現在は「M&A 5億の扉」の専門家として、売り手経営者の立場に立った情報発信と助言を行う。
 
監修兼編集者:谷口友保
株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリー
1971年埼玉県上尾市生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業、同年公認会計士2次試験合格。翌年同学部経済学科を卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。1996年にM&A専門の株式会社レコフへ。2007年、株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリーを設立し代表取締役に就任。
目次

M&Aの着手金とは?その相場と役割を分かりやすく解説

では、そもそもM&Aにおける「着手金」とは一体何なのでしょうか?まずはその基本的な定義、料金体系、そして具体的な役割について、専門用語も交えながら分かりやすく解説していきます。

M&Aにおける「着手金」の基本的な定義

M&Aにおける着手金とは、M&A仲介会社とのアドバイザリー契約を締結する際に支払う初期費用を指します。これは、M&Aのプロセスを本格的に始動させるための「号砲」のようなものだとお考えください。

重要な特徴は、この着手金が原則としてM&Aの成約・不成約に関わらず返金されない〈非返金性〉という点です。一部の経営者様が「手付金」のようなものと誤解されることがありますが、その性質は全く異なります。

着手金は、M&Aという航海の羅針盤を作成するための、最初の、そして極めて重要な投資なのです。

【料金体系別】着手金の費用相場は50万~200万円が一般的

では、着手金の具体的な相場はいくらなのでしょうか?

近年の動向として、中小企業のM&Aにおける着手金の一般的な相場は50万円~200万円程度とされています。ただし、これはあくまで目安であり、対象企業の規模やM&Aの難易度によって変動します。また、M&A仲介会社の料金体系は一様ではありません。

主に以下の3つのパターンに大別されます。

料金体系着手金中間金成功報酬特徴
一般的な料金体系50万~200万円成功報酬の10~20%レーマン方式最も標準的な体系。着実なサポートが期待できる。
完全成功報酬制0円0円レーマン方式(高め)初期費用ゼロが魅力だが、仲介会社の関与度が低いリスクも。
リテイナーフィー型0円~0円~レーマン方式+月額報酬月額30万~200万円程度の顧問料が発生。長期化すると高額に。

このように、着手金が無料の「完全成功報酬制」を採用する仲介会社も増えていますが、その分、成功報酬の料率が高めに設定されているケースが多いため、単純な初期費用の有無だけで判断するのは早計です。

着手金は何に使われるのか?その具体的な内訳

「返金されない費用ならば、一体何に使われるのか?」

これは経営者として当然の疑問でしょう。私がこれまで関与してきた多くの案件の経験から断言できるのは、着手金が単なる「仲介会社への支払い」ではなく、M&Aの成功に向けた極めて重要な初期業務に充当されるという事実です。

具体的には、主に以下の3つの業務に使われます。

  1. 企業価値評価(バリュエーション)
    • 貴社の価値を客観的かつ多角的に算定します。これは、後の買い手候補との交渉における全ての土台となる、最も重要なプロセスです。
  2. 企業概要書(インフォメーション・メモランダム)の作成
    • 貴社の魅力や強み、将来性をまとめた「お見合い写真」とも言える詳細な資料を作成します。この資料の質が、買い手候補の関心度を大きく左右します。
  3. 初期的な候補先リストアップと打診
    • 仲介会社が持つ独自のネットワークを駆使し、貴社にとって最適と思われる買い手候補の初期リストを作成し、匿名で打診を開始します。

これらの業務には、公認会計士や税理士といった専門家の人件費、膨大なデータ分析、そして資料作成のための多大な時間と労力がかかります。

着手金は、これらの「質の高い事前準備」を担保するための費用であり、M&Aの成功確率を初期段階で大きく引き上げるための戦略的投資なのです。

完全成功報酬制との決定的な違いは?メリット・デメリットを徹底比較

近年、特にインターネットを中心に「着手金無料」を謳う完全成功報酬制のM&A仲介会社が増えてきました。初期費用がかからないという点は、確かに経営者にとって大きな魅力に映るでしょう。しかし、その魅力的な響きの裏に隠されたリスクを正確に理解している方は、実は多くありません。

ここでは、着手金ありのプランと完全成功報酬制の決定的な違いを、メリット・デメリットの両面から徹底的に比較・分析します。

M&A 報酬体系 徹底比較

「完全成功報酬制」の仕組みと魅力

完全成功報酬制とは、その名の通り、M&Aが最終的に成約するまで、仲介会社に一切の費用を支払う必要がない料金体系です。

相談料、着手金、月額報酬、中間金といった費用がすべて無料であり、M&Aが不成立に終わった場合のリスクはゼロ。

これは、「M&Aに関心はあるが、成約しなかった場合のリスクは負いたくない」と考える経営者にとって、非常に魅力的な選択肢に見えることは間違いありません。

【比較表】着手金あり vs 完全成功報酬制 どちらを選ぶべきか

では、両者には具体的にどのような違いがあるのでしょうか。費用発生のタイミング、仲介会社の関与度、そして最終的なM&Aの成功確率という観点から、両者のメリット・デメリットを比較してみましょう。

比較項目着手金ありプラン完全成功報酬制プラン
初期費用発生する(50万~200万円)0円
M&A不成立時のリスク着手金は返金されない0円
仲介会社の関与度高い傾向(本気度が伝わる)低い可能性がある
サポートの質質の高い事前準備が期待できる案件によりばらつき
成功報酬率標準的(例:5%)割高な傾向(例:5%以上)
向いている企業・M&Aの成功確率を最大限高めたい
・手厚いサポートを望む
・初期費用を極力抑えたい
・比較的、成約しやすい案件

この表からも分かる通り、完全成功報酬制は初期リスクがない一方で、仲介会社の関与度が低くなる可能性や、サポートの質にばらつきが出るというデメリットを内包しています。

完全成功報酬制の隠れたリスクと注意点

私が独立系コンサルタントとして多くの経営者様から相談を受ける中で、完全成功報酬制にまつわるトラブルは後を絶ちません。ここでは、特に注意すべき3つの隠れたリスクについて、私の実務経験から具体的にお話しします。

1. 質の低いマッチングと安易な妥協

仲介会社は、成功報酬を得るために、とにかく成約を急ぐ傾向があります。その結果、貴社にとって必ずしも最適ではない相手とのマッチングを強引に進めたり、不利な条件での妥協を迫ったりするケースが見られます。

私が知るあるケースでは、買い手企業のデューデリジェンス(買収監査)が不十分なまま契約が進められ、後に大きな問題が発覚しました。

2. 「売れやすい案件」の優先と「塩漬け」リスク

仲介会社も営利企業です。手間がかからず、すぐに成約しそうな「売れやすい」案件を優先するのは当然の摂理です。その結果、少しでも複雑な事情を抱える案件や、業界の専門知識を要する案件は後回しにされ、長期間「塩漬け」にされてしまうリスクがあります。

相談してから1年以上、具体的な候補先の提案が全くなかったという話も珍しくありません。

3. 情報漏洩のリスクと「両手取引」の罠

一部の悪質な仲介会社では、多くの案件情報を集めること自体を目的とし、貴社の情報を自社の「見込み客リスト」として利用するケースがあります。

また、売り手と買い手の双方から手数料を得る「両手取引」を基本とする仲介会社の場合、情報の透明性が担保されず、本来もっと良い条件を提示してくれるはずの買い手候補が、意図的に紹介されないという事態も起こり得ます。

「タダより高いものはない」という言葉がありますが、M&Aの世界においては、まさにこの言葉が当てはまる場面が少なくないのです。

なぜ着手金は必要なのか?「払うべき」と言われる3つの本質的な理由

完全成功報酬制のリスクについてお話しすると、多くの経営者様は「では、なぜ着手金を払ってでも、仲介会社に依頼する価値があるのか?」という疑問に行き着きます。

結論から申し上げましょう。着手金は、単なる「費用」ではなく、M&Aの成功確率と最終的な満足度を最大化するための「戦略的投資」だからです。

ここでは、着手金を「払うべき」と言われる3つの本質的な理由を、私の実体験を交えながら解説します。

理由1:M&Aの成功確率を高める「質の高い事前準備」のため

M&Aの成功は、その8割が「事前準備」で決まると言っても過言ではありません。そして、その準備の質を担保するのが、まさしく着手金なのです。先ほども触れましたが、着手金は詳細な企業価値評価や、買い手の心を動かす質の高い企業概要書の作成に充てられます。

私が大手金融機関に在籍していた頃、ある老舗の製造業のM&Aを担当したことがあります。

その企業は素晴らしい技術力を持っていましたが、財務資料の整理が不十分で、自社の強みを客観的に示すデータがありませんでした。

私たちは着手金をいただき、数ヶ月かけて徹底的な事業分析と市場調査を実施。

その結果を基に、将来の収益性まで見据えた詳細な企業価値評価報告書と、技術力の優位性を具体的に示す企業概要書を作成しました。

結果、当初の想定を大幅に上回る評価額を提示する買い手候補が現れ、経営者様も従業員の皆様も、そして買い手企業も納得のいく形でM&Aが成立したのです。

この「質の高い事前準備」こそが、買い手候補からの評価を高め、より良い条件でのマッチングを引き出すための、何よりの武器となります。

理由2:仲介会社との「強固なパートナーシップ」を築くため

M&Aは、決して一人では戦えません。それは、経営者と仲介担当者が二人三脚でゴールを目指す、長い駅伝のようなものです。着手金を支払うという行為は、経営者であるあなたの「本気度」を仲介会社に示す、重要な意思表示となります。

「この経営者は、本気で会社を未来へ繋ごうとしている」

その想いが伝わることで、仲介会社の担当者は単なる「案件の一つ」としてではなく、「絶対に成功させるべきパートナー」として、貴社に真剣に向き合うようになります。

人間的な側面のようですが、これは非常に重要です。

私もコンサルタントとして、経営者様の熱意に触れるたびに、「この想いに応えたい」と強く感じます。着手金は、仲介会社からより質の高い、より真剣なサポートを引き出すための「覚悟の証」であり、強固なパートナーシップを築くための絆となるのです。

理由3:買い手からの信頼を獲得し、交渉を有利に進めるため

買い手企業は、M&Aにおいて常に「リスク」を警戒しています。特に、財務内容が不透明であったり、将来性に疑問符が付いたりする企業に対しては、非常に厳しい目で評価を下します。

ここで効いてくるのが、着手金をかけて作成された「質の高い資料」です。客観的なデータに基づき、論理的に構成された企業概要書や価値評価報告書は、それ自体が買い手企業に対する「信頼の証」となります。

「この会社は、専門家を介して、自社の情報を誠実に開示している」

この初期段階での信頼獲得が、その後のデューデリジェンス(買収監査)をスムーズに進め、交渉の過程で発生しがちな疑念や不安を払拭する上で、絶大な効果を発揮します。

結果として、些細な問題で交渉が暗礁に乗り上げるリスクを低減し、最終契約まで有利な立場で交渉を進めることが可能になるのです。

【ケーススタディ】5億円規模のM&A、着手金は賢い投資か?

では、より具体的に、私の専門分野でもある「企業価値5億円規模」のM&Aを例に、着手金が本当に「賢い投資」と言えるのかを検証してみましょう。

5億円規模のM&Aにおける報酬体系の現実

企業価値が5億円規模の中小企業M&Aは、最も一般的な案件の一つです。この規模のM&Aにおいて、仲介会社に支払う報酬は、主に「着手金」と「成功報酬」で構成されます。

  • 着手金:前述の通り、100万円~200万円が一般的な相場です。
  • 成功報酬:譲渡対価に応じて算出される「レーマン方式」が採用されるのが通例です。

【用語解説】レーマン方式
M&Aの成功報酬を計算する際に用いられる世界標準の計算方式。取引金額が大きくなるほど手数料率が低くなるのが特徴です。

譲渡対価料率
5億円以下の部分5%
5億円超~10億円以下の部分4%
10億円超~50億円以下の部分3%
50億円超~100億円以下の部分2%
100億円超の部分1%

シミュレーション:着手金あり vs なし、最終的な手残りはどう変わる?

それでは、譲渡対価5億円のM&Aが成立したと仮定して、2つのプランを比較シミュレーションしてみましょう。

プランA:着手金ありプラン

  • 着手金:200万円
  • 成功報酬率:4%(標準よりやや低め)

プランB:完全成功報酬制プラン

  • 着手金:0円
  • 成功報酬率:5%(標準料率)
項目プランA(着手金あり)プランB(完全成功報酬)
着手金200万円0円
成功報酬2,000万円(5億円 × 4%)2,500万円(5億円 × 5%)
支払手数料合計2,200万円2,500万円
経営者の手残り4億7,800万円4億7,500万円

このシミュレーション結果だけを見ると、プランA(着手金あり)の方が、最終的な支払手数料が300万円安く、経営者の手残りも多くなることが分かります。

しかし、ここで考慮すべきは、「成約の確度」と「譲渡価格の上振れ可能性」です。

プランAのように着手金を支払い、仲介会社と強固なパートナーシップを築くことで、より質の高いサポートが期待できます。その結果、例えば譲渡価格が5%上振れして5億2,500万円で成約した場合、どうなるでしょうか。

  • プランAの成功報酬:5億2,500万円 × 4% = 2,100万円
  • 支払手数料合計:200万円 + 2,100万円 = 2,300万円
  • 経営者の手残り:5億2,500万円 – 2,300万円 = 5億200万円

プランBの当初の手残り(4億7,500万円)と比較して、実に2,700万円もの差が生まれるのです。

もちろんこれは一例に過ぎませんが、着手金という初期投資が、最終的により大きなリターンを生む可能性を秘めていることは、ご理解いただけたのではないでしょうか。

着手金は、単なるコストではなく、M&Aの成功という果実を最大化するための、極めて合理的な「投資」なのです。

後悔しないM&A仲介会社選び、3つの判断基準

ここまで着手金の重要性について解説してきましたが、もちろん「着手金を払えば、どの仲介会社でも良い」というわけではありません。M&Aの成否は、最終的に「どのパートナーを選ぶか」にかかっています。

ここでは、私が数多くのM&Aの現場で培ってきた経験から、後悔しない仲介会社を選ぶための3つの判断基準を具体的にお伝えします。

判断基準1:料金体系の透明性と合理性

まず最も重要なのが、料金体系の透明性です。ウェブサイトやパンフレットに、以下の点が明確に記載されているかを確認してください。

  • 各費用の定義:着手金、中間金、成功報酬がそれぞれ何に対する対価なのか。
  • 計算基準:成功報酬の計算基準となる「譲渡対価」に何が含まれるのか(株式価値のみか、負債も含むのか)。
  • 最低報酬額:最低報酬額が設定されている場合、その金額はいくらか。

特に注意すべきは、成功報酬の計算基準です。仲介会社によっては、株式の譲渡価格だけでなく、有利子負債なども含めた「移動総資産」を基準に報酬を計算する場合があります。

この場合、経営者が想定していたよりも、はるかに高額な手数料を請求される可能性があるため、契約前に必ず確認が必要です。

判断基準2:自社の業界・規模に精通した実績と専門性

M&Aは、業界や企業規模によって、その特性や留意点が大きく異なります。例えば、IT業界のM&Aと、地方の建設業のM&Aでは、評価すべきポイントも、候補となる買い手企業も全く違います。

したがって、仲介会社を選ぶ際には、必ず自社の業界や、5億円という企業規模のM&Aにおいて、豊富な実績と専門知識を持っているかを確認することが不可欠です。

  • ウェブサイトの実績ページを確認する:過去にどのような業界・規模のM&Aを成功させてきたか。
  • 担当者との面談で具体的な事例を聞く:自社と類似した案件の経験はあるか、その際にどのような課題があり、どう乗り越えたか。

専門性の高い担当者は、貴社のビジネスの核心を素早く理解し、その価値を最大化するための具体的な戦略を提示してくれるはずです。

判断基準3:「人」としての信頼性——担当者との相性

最後に、しかし最も重要かもしれないのが、担当者との「相性」です。M&Aのプロセスは、短くても半年、長ければ数年に及びます。その間、経営者は会社の未来を左右する重大な決断を、何度も迫られることになります。

そんな時、隣で支えてくれる担当者が、心から信頼できる人物でなければ、到底乗り越えることはできません。

  • あなたの話に真摯に耳を傾けてくれるか?
  • 数字だけでなく、会社の歴史や従業員への想いも理解しようとしてくれるか?
  • メリットだけでなく、リスクやデメリットについても正直に話してくれるか?
  • 何よりも、その「人」を信頼し、会社の未来を託したいと思えるか?

初回の面談で、ぜひこれらの点を見極めてください。複数の仲介会社と面談し、最も信頼できると感じたパートナーを選ぶこと。それが、後悔しないM&Aへの、最も確実な一歩となるでしょう。

よくある質問(FAQ)

最後に、M&Aの着手金に関して、経営者の皆様からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. 着手金を支払った後、仲介会社が何もしてくれなかったらどうなりますか?

A. そのような事態を避けるためにも、契約内容の確認が重要です。アドバイザリー契約書には、通常、仲介会社が提供する業務の範囲(スコープ・オブ・ワーク)が明記されています。契約書に記載された業務が履行されない場合は、契約違反として着手金の返還を求めることも可能です。

信頼できる仲介会社は、定期的な進捗報告を義務付けていることがほとんどです。

Q2. 完全成功報酬制でも、質の高い仲介会社はありますか?

A. はい、存在します。特に、特定の業界に特化していたり、独自の強力な買い手ネットワークを持っていたりするブティック型の仲介会社の中には、完全成功報酬制でも質の高いサービスを提供する会社があります。ただし、その場合でも、なぜ着手金を取らずにビジネスが成り立つのか、その理由を明確に説明できる会社を選ぶべきです。

例えば、「成約率に絶対の自信があるから」といった合理的な説明があるかどうかが一つの判断基準になります。

Q3. 着手金の値下げ交渉は可能ですか?

A. 交渉自体は可能ですが、私はお勧めしません。前述の通り、着手金は質の高い事前準備のための原資です。安易な値引きは、提供されるサービスの質の低下に直結するリスクがあります。値下げを要求するよりも、その金額に見合った、あるいはそれ以上の価値を提供してくれるのか、そのサービス内容を徹底的に確認する方が、最終的に経営者様のためになると私は考えます。

まとめ:着手金は「未来への投資」。賢い選択で、納得のM&Aを。

本記事では、M&Aにおける着手金の意義と、完全成功報酬制との違いについて、多角的に解説してきました。

改めて、重要なポイントを振り返りましょう。

  • 着手金は、M&Aの成功確率を高めるための「戦略的投資」である。
  • 着手金は「質の高い事前準備」「強固なパートナーシップ」「買い手からの信頼」の3つの価値を生み出す。
  • 完全成功報酬制は初期リスクがない反面、「質の低いマッチング」や「塩漬け」といった隠れたリスクを伴う。
  • 5億円規模のM&Aでは、着手金を支払う方が、最終的な手残りが多くなる可能性がある。
  • 仲介会社選びは「料金の透明性」「専門性」「人としての信頼性」の3つの基準で判断する。

M&Aは、単なる事業の売買ではありません。それは、経営者様が人生をかけて育ててきた会社、そして従業員の皆様の未来を、次の世代へと託す、極めて重要な経営判断です。

その重大な決断の第一歩である「パートナー選び」において、目先の費用だけで判断するのではなく、その費用がどのような価値を生み出すのか、その本質を見極めることが何よりも重要です。

着手金という「未来への投資」を賢く行い、貴社にとって、そして関わるすべての人にとって、心から納得のいくM&Aを実現されることを、心より願っております。

谷口友保 代表取締役
M&A専門家に相談

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本記事で解説した内容について詳しくお知りになりたい方、またはM&Aの実行をご検討中の方は、M&A専門の経験豊富な代表者へ直接ご相談ください。初期相談は無料です。

谷口友保 株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリー 代表取締役
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