中堅企業が「5億円超」の企業価値を実現するには?M&Aアドバイザーの“鑑定眼”に迫る。
2025年現在、中小企業のM&A市場は過去にない盛り上がりを見せています。
後継者不在や成長戦略の選択肢としてM&Aを選ぶ経営者が増える一方、「自社の価値はいくらなのか?」という問いには、多くの方が答えに窮します。
特に「5億円以上の企業価値を目指せるか?」というラインは、ひとつの到達点。
この水準を達成するには、単に数字が揃っているだけでは足りません。
あなたの会社の“見えない価値”まで評価し、それを買い手に伝える——そんな真の「目利き力」を持つM\&Aアドバイザーの存在が不可欠なのです。
私自身、これまでに100件以上の中堅企業M&Aに携わってきました。
現場で痛感するのは、アドバイザーの評価眼ひとつで譲渡価格が億単位で変わるという事実。
本記事では、そうした「目利き力」とは何か、どう見極めるかを、専門家としての経験と実例を交えて解説します。

谷口 友保
株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリー
1971年埼玉県上尾市生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業、同年公認会計士2次試験合格。翌年同学部経済学科を卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。1996年にM&A専門の株式会社レコフへ。2007年、株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリーを設立し代表取締役に就任。
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目利き力とは何か?M&Aアドバイザーの真の実力を測る
「目利き力」の定義と役割
そもそも「目利き力」とは何でしょうか?
M&Aの世界では、単なる数値評価にとどまらず、「この会社は本当に5億円の価値があるのか?」を多角的に判断する力を指します。
具体的には、以下の3要素を統合的に見る力が問われます。
- 財務情報の正確な読み解き
- 市場・業界構造への理解
- 無形資産や経営者のビジョンといった“定性要素”の洞察力
これは例えるならば、骨董品の真贋を見極める“鑑定士”に近い仕事です。
数字には出てこない真の価値——たとえば「地域密着のリピート顧客」「技術者の定着率」「後継体制の整備」など——を見抜き、買い手に納得感をもって提示できるかが、アドバイザーの腕の見せ所となります。
なぜ「5億円超」の見極めが難しいのか
中小企業の世界では、上場企業のような詳細な情報開示は行われていません。
財務諸表だけでは読み取れない情報が、実は評価を左右することも多々あります。
たとえば、ある老舗製造業のケース。
一見、営業利益は2,000万円程度と控えめでしたが、「OEM供給契約による安定売上」「長年無事故で運営された品質管理体制」が高く評価され、最終的には5.5億円で成約しました。
このように、「表に出てこない強み」を見抜けるかどうか。
これが、まさに“5億円の壁”を越える分水嶺となります。
優れたアドバイザーに共通する資質とは
では、そのような「目利き力」を持つアドバイザーには、どんな資質が求められるのでしょうか?
私の経験上、以下の4点が不可欠です。
- 評価眼の的確さ:収益力だけでなく、リスクや将来性をどうバランスよく見るか。
- 倫理観の強さ:売却後のトラブルを未然に防ぐため、情報を“盛らない”姿勢。
- 情報収集力:経営者・現場社員・外部関係者から立体的に情報を拾う力。
- 交渉戦略の構築力:単なる仲介ではなく、「誰に」「どう提示すれば高値がつくか」を設計できるスキル。
「過去にどれくらいの規模の案件を手掛けたか」も重要ですが、それ以上に「どんな会社をどう評価し、どう伝えて売ったのか」というプロセスを聞くことで、その真価が見えてきます。
企業価値評価の基礎知識:5億円超えのための条件
では、企業が「5億円の価値がある」と評価されるには、どのような要素が必要なのでしょうか。
まずは企業価値の算出方法を正しく理解し、それぞれの手法が持つ特性や限界を知ることが第一歩です。
主な評価手法と使い分け
M&A実務で用いられる企業価値の評価手法は、大きく以下の4つに分類されます。
1.DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)
将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く方法で、理論的には最も精緻です。
しかし、中小企業では将来予測の不確実性が高いため、実務での活用は限定的です。
2.収益還元法
予測される一定の利益を資本還元率で割り引く方法。
収益性を評価の軸とするため、成長安定企業の評価に向いています。
3.マルチプル法(類似会社比準法)
同業他社の売上や利益に対する市場倍率(例:営業利益の5倍)をもとに評価します。
迅速な仮試算に向いていますが、比較対象の選定が重要です。
4.時価純資産法(NAV法)
保有資産と負債を時価で評価し、差額を純資産として算出します。
赤字企業や資産保有型企業に適していますが、将来性は反映しません。
実務では、これらを単独ではなく併用するのが一般的です。
たとえば、収益還元法を軸に評価し、純資産法で下限値を補強し、マルチプル法でマーケット感覚を補正するといった具合です。
「営業利益×倍率」で分かる簡易試算の落とし穴
経営者の方からよく聞かれるのが、「ウチの会社、営業利益3,000万円で、×5倍なら1.5億円くらいですか?」というご質問です。
たしかに「営業利益×倍率」は、手早く試算するには便利な方法です。
しかし、この式には大きな盲点があります。
まず、使うべき利益は「調整後営業利益」でなければなりません。
オーナーの高額報酬や私的経費、一時的な赤字部門の影響などを排除し、事業本来の収益力に修正する必要があるのです。
また、倍率(マルチプル)も業種・市場環境・成長性によって大きく異なります。
たとえば、同じ3,000万円の利益でも、地方の建設業とSaaS型のIT企業とでは、買い手の評価は大きく変わります。
そのため、簡易試算はあくまで「目安」にとどめ、本格的な評価では複数の手法を使い分けることが欠かせません。
「5億円評価企業」とはどんな会社か?
では実際に、どんな会社が「5億円」の評価を受けやすいのでしょうか。
あくまで一つの目安ですが、以下のような水準が目安となります。
評価視点 | 一般的な水準目安 |
---|---|
年商 | 5〜10億円以上 |
営業利益(調整後) | 3,000万円〜1億円前後 |
純資産 | 1億円以上 |
業種 | IT・製造・医療・物流など買い手ニーズが強い分野 |
ただし、これは「数字の目安」でしかありません。
冒頭で述べたように、企業価値は数字だけでは測れない“目に見えない価値”が大きく影響します。
次章では、そうした「定性情報」をどう評価に織り込むのか、アドバイザーがどのように見極めているのかを深掘りしていきます。
目に見えない価値をどう評価するか?定性情報の目利き術
「うちは数字が弱いから、評価は期待できないかも…」
そう感じている経営者の方は少なくありません。
しかし実務では、財務指標が平均的でも定性面の強みによって高い評価を得るケースが少なくないのです。
この章では、企業価値の“数字に出ない部分”——無形資産、経営者の想い、そして将来性の評価方法について解説します。
顧客基盤・技術・人材などの無形資産
企業の価値を左右する「見えない資産」の代表格が、無形資産です。
中でも次のような要素は、買い手にとって非常に魅力的に映ります。
- リピート率の高い顧客基盤(特にBtoB取引で安定契約がある場合)
- 熟練の技術スタッフや営業人材(属人性が少なく、継続性があるか)
- 業界特化のノウハウ・商流・特許やソフトウェア資産など
たとえば私が担当したある印刷会社では、「地方自治体の継続案件比率が9割以上」「DTPの内製体制で外注コストを抑制」という2つの強みが評価されました。
営業利益は3,000万円程度でしたが、最終的には4.8億円の価格がつきました。
評価のポイントは、「その無形資産が、買い手にとってどの程度再現可能か」「どのくらい事業に貢献しているか」を明らかにすることです。
無形資産は、決算書には現れません。
だからこそ、アドバイザーが現場取材やヒアリングを通じて掘り起こし、数字の裏にある価値を可視化する力=目利き力が重要になります。
経営者のビジョンや企業文化の影響
意外に思われるかもしれませんが、「社長の考え方」や「企業文化」も、買い手にとって重要な評価ポイントです。
なぜなら、M&Aの多くは事業の引き継ぎ=人と文化の引き継ぎでもあるからです。
いくら業績が良くても、トップが属人的で後継体制が未整備、社員のモチベーションが低い——そんな企業は、買い手からするとリスクです。
ある専門商社では、社長が従業員の自立を支援する仕組みを整えており、「誰が引き継いでも回る体制」が社内に根付いていました。
この“文化”が買い手の安心材料となり、競争入札の結果、希望額を上回る5.8億円での成約につながりました。
評価を高めるには、「この会社はどんな価値観で動いているか」「その文化は買い手にどう引き継がれるか」を伝える工夫が不可欠です。
ここでも、アドバイザーの“翻訳力”が問われます。
将来性をどう見極めるか
そしてもう一つ、企業価値に大きく影響するのが将来性の見極めです。
「この会社が今後どう成長するか」は、買い手にとっての最大の関心事。
たとえ現状の利益が小さくても、「この分野に参入しようとしていた」「技術の内製化を進めたい」という買い手の戦略と合致すれば、企業価値は大きく跳ね上がる可能性があります。
評価の場面では、以下のような情報が有効です。
- 中期経営計画や投資方針
- KPI(重要業績指標)とその推移
- 市場環境の変化とニーズへの対応
ここでも、ただ資料を揃えるだけでなく、「どこが魅力で、どんな根拠があるか」を言語化することが重要です。
アドバイザーは、経営者と共に将来性を“ストーリーとして構築”し、それを資料とともに買い手に提示します。
「将来への物語性がある会社」。
そう評価されると、買い手の想像力が働き、数字以上の価格がつくことは珍しくありません。
実務家が教える企業価値評価プロセスのリアル
では、実際にM&Aアドバイザーはどのようなプロセスで企業価値を評価しているのでしょうか。
この章では、現場で行われる評価準備から財務調整、そして最終的な評価設計に至るまでの流れを、私自身の経験を交えて具体的に解説します。
評価の準備と必要資料
まず最初に行うのが、「評価のための土台作り」です。
ここで重要なのは、経営者が「何をどう開示すべきか」を理解していること。
以下の資料が整っているだけで、評価作業の精度とスピードが大きく変わります。
- 過去3~5年分の決算書および試算表
- 法人税申告書・別表・勘定科目内訳書
- 主要取引先・仕入先リスト
- 設備一覧、資産台帳、借入金明細
- 従業員構成と給与明細
- 契約書(リース、顧客契約、知財等)
特に中小企業では、「会計士任せで詳細を把握していない」「役員報酬や福利厚生に私的支出が混じっている」というケースも少なくありません。
こうした情報を整理・棚卸しし、正確な現状把握を行うことが、評価の出発点です。
私が関与した地方サービス業のケースでは、オーナーの親族を含めた報酬体系が複雑で、実態把握に1か月以上かかりました。
評価作業は、単なる“数字合わせ”ではなく、経営実態を浮き彫りにする作業でもあるのです。
財務の「調整作業」とは?
次に行うのが、財務数値の“調整”です。
ここがアドバイザーの目利き力の真骨頂とも言える部分です。
評価に使うのは、決算書そのままの数字ではありません。
実態に即した「調整後営業利益(EBITDA)」を算出するために、以下のような修正を加えます。
- オーナー報酬の適正化:市場水準と比較して高すぎる役員報酬を一般水準に引き下げ。
- 私的経費の除外:会社経費に含まれる私的旅行、贈答、交際費などの洗い出し。
- 一過性収益・費用の除外:コロナ特需、事故損失など継続しない収益・費用の排除。
- 貸倒引当金、償却費の調整:資産の実態に応じて評価額を見直す。
たとえば、3期連続で赤字だった製造業の案件でも、調整後利益で見ると、黒字に転換していたケースがありました。
買い手に対しては、この「調整前と後のギャップ」を丁寧に説明し、納得を得ることが極めて重要です。
この工程は、あたかも“企業の化粧を落として、素顔を見る”作業とも言えます。
ここで曖昧な説明しかできないアドバイザーは、交渉時に信頼を失いかねません。
デューデリジェンスと最終評価
調整後の財務数値が整ったら、次に行うのがデューデリジェンス(Due Diligence/精査)です。
これは、買い手または第三者が企業の実態を法務・税務・財務・事業面から多角的に調査するプロセスです。
ここで重要なのは、売り手側のアドバイザーとして、事前にリスクを把握し、対応策を講じておくことです。
たとえば以下のような点を洗い出します。
- 売上先が一社依存ではないか?
- 従業員の雇用契約・労務管理に問題はないか?
- 設備や不動産に隠れた債務や権利関係はないか?
評価額に影響を与える重大なリスクが見つかると、買い手から価格引き下げを要求されることもあります。
この局面で「どこまで受け入れるか」「交渉でどこを守るか」は、アドバイザーの交渉力次第です。
最後に、これまでの情報をもとに「評価レンジ(〇億~〇億)」を設計します。
ここでは単に一つの価格を提示するのではなく、リスクと魅力の両面を伝えながら、「この会社にはこのくらいの価値がある」と説得力を持って示すことが求められます。
M&A価格はどう決まる?価値と価格の違いを理解する
「うちの会社は5億円の価値があると評価された。だから5億円で売れるはずだ」
――このような誤解は、M&Aの現場では非常に多く見られます。
しかし、企業価値(バリュエーション)=譲渡価格(プライス)ではありません。
この章では、M&A実務における「価値と価格の違い」、そして買い手の視点や交渉テクニックを含めた価格決定のリアルを解説します。
評価額と譲渡価格はなぜ異なるのか
企業価値評価とは、あくまで「理論上、その企業にこれだけの価値がある」と算出する基準値に過ぎません。
一方で譲渡価格は、「買い手が実際に支払ってもよいと判断した金額」つまり交渉と需給の結果です。
これは例えるなら、不動産の「査定価格(理論値)」と「実際の成約価格」の違いに似ています。
同じ物件でも、買い手の希望や交渉力、市場のタイミングによって価格は大きく変動します。
過去に、評価額4.2億円の物流会社が、買い手2社による競合の末、最終的に5.3億円で成約した事例がありました。
逆に、評価額は高くても買い手が1社しか現れず、譲渡価格が想定を下回ったケースもあります。
このように、評価額は「価格の土台」であっても、「実際にいくらで売れるか」は別問題なのです。
買い手の視点とシナジーの考慮
買い手がどのように価格を判断するかを知ることも、非常に重要です。
評価額に対して「高い」「安い」と感じる基準は、買い手ごとに異なります。
特に重視されるのが、シナジー(相乗効果)です。
買い手が自社と統合することで、どれだけの経済的メリットが見込めるか?――これによって、支払ってもよい価格は変わります。
例えば以下のようなケースでは、評価額を超える価格が提示されやすくなります。
- 自社が苦手とする地域に営業拠点を持つ企業の買収(地域補完)
- 自社の技術と組み合わせることで新製品を開発できる相手(製品補完)
- 自社の販路に相手のサービスを載せられる(クロスセル)
こうした買い手にとっての「付加価値」を事前に設計し、どの買い手が最も高い価値を見出してくれるかを探すことが、アドバイザーの腕の見せどころです。
入札形式で価格を最大化する戦略
高値で売却したいと望むなら、競争環境を作ることが極めて効果的です。
そのために有効なのが、「入札形式(ビッド形式)」による売却プロセスです。
これは、複数の買い手候補に一斉に情報を開示し、それぞれから最終提案(価格・条件)を受け取ったうえで選定する手法です。
競争心理が働きやすく、価格が上振れする可能性が高まります。
たとえば、私が支援した老舗部品メーカーでは、5社からの入札が集まりました。
初期評価額は3.8億円程度でしたが、最終的に6.1億円での成約となりました。
この差は、まさに「買い手がどれだけ価値を見出してくれたか」、そして「競争環境があったか」に尽きます。
入札形式は情報管理やプロセス設計に手間がかかるため、アドバイザーの経験と交渉設計力が問われる方式でもあります。
しかし、“企業価値以上の価格”を狙う上では、非常に有効な選択肢です。
企業の価値と価格の違いを理解すれば、「なぜ思ったより高く売れたのか」「なぜ価格交渉が難航したのか」といった場面での判断力が高まります。
次章では、経営者の方からよく寄せられる質問にお答えする形で、記事全体の補足を行っていきます。
よくある質問(FAQ)
ここまでの内容を踏まえ、実際の相談現場で経営者の方からよくいただく質問をまとめました。
短くも本質的な問いが多く、改めて「M&Aにおける目利き力とは何か?」を考えるヒントになります。
Q: 自社が5億円の価値があるか簡単に知る方法は?
A:あくまで“簡易的な試算”であれば、「営業利益(調整後)×3〜5倍 + 純資産額」という方法があります。
たとえば営業利益が4,000万円、純資産が1億円なら、4,000万円 × 4(倍率)+ 1億円=2.6億円という計算です。
ただしこれは、あくまで「目安」に過ぎません。
調整が適切でない利益や、業種や買い手によって変動する倍率を用いると、正確性に欠けます。
正式な価値評価には、やはり専門家の目利きが不可欠です。
Q: 簿価純資産=企業価値ではないの?
A:いいえ、必ずしも一致しません。
簿価純資産はあくまで「過去の帳簿上の蓄積」であり、将来の収益性や成長性は反映されていません。
たとえば純資産が2億円ある会社でも、毎年赤字なら評価はそれ以下になる可能性があります。
逆に純資産が少なくても、収益性や将来性が評価されて5億円超の価値がつく企業もあります。
M\&Aでは、「帳簿に載らない価値」が価格に直結することを理解しておくことが大切です。
Q: アドバイザーの目利き力はどう見極める?
A:「良いアドバイザーに出会えるかどうか」が、M\&A成功の半分を占めると言っても過言ではありません。
見極めのポイントは以下の通りです。
- 過去の実績を具体的に説明できるか
- 質問に対し、納得感のある根拠とデータで返してくれるか
- 「売れます」ではなく、「なぜ売れるのか」を説明できるか
- 複数の評価手法を理解し、目的に応じて使い分けられるか
- 経営者の立場に立ち、長期的視点で提案してくれるか
私が特に重視するのは、「説明の深さとバランス感覚」です。
営業トークが上手でも、内容が薄い・極端な楽観論ばかりのアドバイザーには注意が必要です。
Q: 評価手法はどれが正しいの?
A:「唯一の正解」はありません。
企業の業種、成長性、事業構造、資産状況などによって、適した手法は異なります。
一般的には、複数の手法を併用しながら、相場感と合理性をもとに評価レンジを設定するのが実務的です。
たとえば以下のような使い分けがなされます。
- 安定収益型:収益還元法+マルチプル法
- 高成長型:DCF法+マーケット比較
- 資産保有型:時価純資産法+収益補正
経験豊富なアドバイザーは、これらを柔軟に組み合わせながら評価を構築します。
Q: 目利きで失敗しないためには?
A:「数字だけで判断しない」「1人で結論を出さない」ことが重要です。
実地のヒアリングや現場確認を行い、客観的なデータと、経営者の想いの両面を丁寧にすり合わせるプロセスこそ、価値を見極める鍵になります。
また、複数のアドバイザーに意見を聞いてみるのも一つの方法です。
各社の視点や評価アプローチを比較することで、自社に合った“目利きのプロ”を見つけやすくなります。
まとめ
企業売却とは、単なる事業の引き継ぎではありません。
それは、「あなたが築き上げてきた価値」を、次のステージへとバトンを渡す意思決定です。
そして、その価値を正しく見抜き、最大限に伝える力——それがM&Aアドバイザーの「目利き力」です。
本記事では、その目利き力の本質を、定量・定性の両側面から解き明かしてきました。
ポイントをあらためて整理すると、以下のようになります。
目利き力とは?
- 数字だけでなく、無形資産・企業文化・将来性を読み解く力
- 評価眼・倫理観・交渉設計力など複合スキルの結晶
- 「その会社の価値は、誰にとって、なぜ価値があるのか」を言語化できる専門性
企業価値5億円超を目指すための実務ヒント
- 評価は「営業利益×倍率」だけでは不十分。調整後利益と複数手法の組合せが鍵
- 定性情報(顧客基盤、人材、文化、将来性)を資料とともにロジカルに可視化
- 競争環境(入札形式)を整えることで、理論評価を超える価格も実現可能
経営者が今すぐできること
- 過去の決算書・契約書・顧客リストなど、評価に必要な資料を整理しておく
- 自社の強みや企業文化を、第三者に伝えられる言葉で記録しておく
- アドバイザー選びでは、「実績」よりも「説明の深さ・納得感」を重視する
私の父も、地方で中小企業を経営していました。
「引き際こそ、経営者の覚悟が問われる」と語っていたのを、今でも鮮明に覚えています。
あなたの会社が歩んできた道のり、その中で育んだ信頼、仲間、技術、ビジョン。
それらすべてが、M&Aでは“資産”になります。
だからこそ、見逃されてはいけないのです。
正しい目利きこそが、価値を引き出す最大の武器です。
本記事をきっかけに、自社の価値を見直し、未来に向けた一歩を踏み出していただけたら幸いです。