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【取材報告】トップM&Aアドバイザーが明かす、仲介成功のための「3つの原則」

M&Aを検討する中小企業経営者必読──情報格差を乗り越え、納得の出口戦略を実現する「実務原則」とは?

M&Aは、単なる「企業の売却」ではありません。
それは、経営者にとって“創業の想い”や“従業員の未来”を託す、一世一代の意思決定です。

特に、企業価値5億円前後の中堅・中小企業におけるM&Aでは、「情報の非対称性」「仲介手数料の不透明さ」「交渉力の差」といった見えない壁が、結果を大きく左右します。
事実として、デューデリジェンス(買収監査)の段階で想定外の問題が発覚し、案件が白紙になった事例も後を絶ちません。

では、そうした落とし穴を避け、経営者自身が納得できるM&Aを成功させるには、何が必要なのでしょうか?

本記事では、国内でもトップクラスの実績を誇る独立系M&Aアドバイザーへの独占インタビューを通じて、「仲介成功に不可欠な3つの原則」を明らかにします。

透明性・利害調整・タイムマネジメント──一見すると当たり前のように聞こえるこれらのキーワードには、現場で何百件ものM&Aを支援してきた専門家ならではの“血の通った知見”が詰まっています。

さらに、それぞれの原則を実務に落とし込むための方法論や、実際に起きた失敗事例から学ぶべき教訓も紹介。
経営者としての「意思決定の軸」を築くための一助となれば幸いです。

この記事の監修者

谷口 友保
株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリー

1971年埼玉県上尾市生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業、同年公認会計士2次試験合格。翌年同学部経済学科を卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。1996年にM&A専門の株式会社レコフへ。2007年、株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリーを設立し代表取締役に就任。
代表者挨拶・経歴詳細はこちら

目次

取材の背景とトップアドバイザーの視点

日本の中小M&A市場における課題

現在、国内のM&A市場は活況を呈しています。
2022年には中小企業のM&A件数が4,300件を超え、2023年も4,000件超と高水準を維持しました。
しかし、その裏には、見過ごせない「質の課題」が存在します。

特に中小企業の売却案件においては、以下のような構造的な課題が横たわっています。

  • 情報の非対称性:買い手側にだけ情報やアドバイザーが集中し、売り手側が不利な立場に置かれる
  • 手数料の不透明さ:仲介業者の報酬体系が不明瞭で、成果と費用の妥当性が判断しにくい
  • リテラシーの格差:売り手経営者のM&A経験が乏しく、プロセス全体をコントロールできない

これらの問題は、売却後の企業価値毀損や従業員の離職など、取り返しのつかない結果を招くことすらあります。
一方で、こうした課題を乗り越え、確かな成果をあげているアドバイザーも存在します。

本記事では、その代表格ともいえる独立系トップアドバイザーへの取材から、M&A成功の本質を掘り下げます。

取材対象アドバイザーの経歴と実績

今回取材したのは、累計150件超のM&A支援実績を持つ独立系アドバイザー
前職では大手証券会社のM&A部門に在籍し、クロージング率は驚異の87%。
2020年に独立して以降は、「報酬の中立性」「経営者本位の意思決定支援」を信条に、全国の事業承継案件や成長戦略型のM&Aに携わってきました。

印象的だったのは、アドバイザー自身が「家業がM&Aで失敗しかけた経験」を持っていること。
「だからこそ、机上の理屈ではなく、“現場の実務感覚”に徹底的にこだわるようになった」と語ります。

私が現場で見た限りでも、このクラスのアドバイザーは極めて稀です。
「仲介業者はどこも同じでは?」と考えている方こそ、次に紹介する“3つの原則”に目を通してみてください。

仲介成功を左右する「3つの原則」

原則1:透明性──情報開示とコミュニケーションの徹底

「M&Aの成否は、情報の質と伝達スピードで決まる」。
取材アドバイザーが最初に強調したのは、この“透明性”の原則でした。

M&Aは、売り手と買い手、そして専門家チームの三者間で膨大な情報をやり取りするプロセスです。
財務・法務・人事・取引先・不動産・知財──あらゆる情報を整理・共有し、誤解や漏れのない状態で交渉を進める必要があります。
このときに求められるのが、「何を」「誰に」「いつ」「どこまで」開示するかという明確なルール設計です。

具体的には、次のような情報管理体制が理想です。

  • 仮想データルーム(VDR)を導入し、閲覧履歴・ダウンロードログを管理
  • 社内の担当者ごとにアクセス権限を細分化し、情報漏洩リスクを回避
  • 売り手企業内でも、代表取締役と経理責任者だけで情報を握るのではなく、信頼できる幹部を早期に巻き込む

この透明性が欠けると、買い手は「この会社は隠しているのでは?」と疑念を抱きます。
実際に、未開示だった簿外債務(保証債務や税務リスク)が後から発覚し、バリュエーションが大幅に引き下げられた事例もあります。

「M&Aは“情報の駅伝”です。全員がバトンをしっかり握って走るには、透明性こそ最重要だと考えています」
アドバイザーのこの一言が、強く印象に残りました。

原則2:利害調整──ステークホルダー・マネジメント

2つ目の原則は、「ステークホルダーの声を拾い、利害を調整する力」です。
売り手企業には、経営者だけでなく、株主・従業員・主要取引先・金融機関といった多様な関係者が存在します。
彼らの納得が得られなければ、M&Aは途中で頓挫するリスクが高まります。

たとえば、創業者と後継者が同じ会社でも、売却に対する温度差があるケースは少なくありません。
また、長年勤めた従業員が「買い手に吸収され、自分の居場所がなくなるのでは」と不安を抱えれば、離職の引き金となり得ます。

こうした事態を回避するには、次の3つのマネジメント視点が欠かせません。

  1. ステークホルダーの棚卸しと利害構造の見える化
  2. 「誰に・いつ・何を伝えるか」の対話設計
  3. 合意形成に向けた資料・説明会の準備

特に重要なのは、「情報を開示する順番とタイミング」です。
たとえば、買い手との基本合意(LOI)を結んだ段階で従業員に伝えることで、混乱を最小限に抑えた成功事例もあります。

「M&Aは法務や財務だけで動くわけではありません。人間関係こそが最も複雑で、最も大切な部分です」
この言葉からも、アドバイザーの実務感覚が伺えます。

原則3:タイムマネジメント──プロセス管理と意思決定スピード

3つ目の原則は、「スケジュール感と決断の速さ」です。
中小企業のM&Aでは、初回相談からクロージングまで6〜12か月が目安とされ、最も時間を要するのがデューデリジェンス(DD)〜最終契約までの1.5〜3か月です。

この間に、買い手との交渉・条件整理・契約ドラフト作成など、膨大なタスクが集中します。
スピーディな意思決定ができない場合、買い手が案件から離脱するリスクは一気に高まります。

実際、過去にあったあるケースでは、売り手側の社内調整が長引いたことで、同業の別案件に買い手が流れてしまいました。
その背景には「稟議を誰に通すか曖昧だった」「顧問税理士がM&Aに詳しくなく意見が分かれた」といった要因がありました。

タイムマネジメントの要点は、以下の3つに集約されます。

  • 初期段階で全体スケジュールを逆算し、マイルストーンを設定する
  • 社内決裁フローを事前に整備し、意思決定ボトルネックを洗い出す
  • 外部専門家(税理士・社労士・弁護士)との連携タイミングを明確にする

「M&Aは“静かなる競争”です。決断の遅さが命取りになる」
取材中、このアドバイザーが最も強い口調で語ったのが、この時間管理の重要性でした。

3つの原則を実践するためのアクションプラン

3つの原則(透明性・利害調整・タイムマネジメント)を理解したうえで、次に重要なのは「では、何から着手すべきか?」という実践視点です。
ここでは、経営者が自社で準備すべきドキュメント類と、アドバイザー選定時のチェックポイントについて具体的に解説します。

経営者が準備すべきドキュメント & データ

M&Aをスムーズに進めるには、「初期情報の整理」が極めて重要です。
これは、買い手が最初に接する“会社の顔”であり、精度が高いほど交渉が円滑に進みます。

以下のような書類を、可能な限り早期に、体系的にまとめておくことをおすすめします。

【M&A準備チェックリスト】

分類ドキュメント例補足ポイント
財務直近3〜5年の財務諸表(PL/BS)月次推移もあると理想的
顧客顧客リスト、売上構成上位顧客への依存度を明示
契約賃貸借契約書、主要取引契約、雇用契約満了日・解約条件を整理
資産固定資産一覧、棚卸資産の内訳減価償却や耐用年数の記録も重要
人事組織図、従業員リスト、給与体系退職金制度の有無を含む
知財商標・特許・ソフトウェアの権利書登録状況と利用状況を明記
許認可業種特有の許認可証類更新期限や取得条件も添付

これらは、仮想データルーム(VDR)に格納して管理するのが基本です。
手作業でのメール送付やPDF整理では情報漏洩のリスクも高く、案件の進行に遅れを生じさせます。

また、アドバイザーとの初回面談時にこのような資料を提示できれば、「この経営者は本気だ」と受け止められ、対応優先度が格段に上がります。

アドバイザー/仲介会社の選定ポイント

もう一つの実践的アクションが、「どのアドバイザーを選ぶか」です。
M&Aの成否は、アドバイザーの力量で7割が決まる──これは現場感覚としての真実です。

以下の項目に基づいて、複数社を比較・面談しながら選定することを強くおすすめします。

【アドバイザー評価テンプレート】

評価項目着眼点推奨の確認方法
専門領域事業承継/成長型/業種特化型過去の支援実績・成約件数
報酬体系着手金/月額/成功報酬(レーマン方式)成果連動比率、途中解約条件
案件規模自社規模(5億円前後)とマッチしているか直近の成約案件の規模感
中立性買い手との関係性・取引履歴独立系か、グループ会社がないか
担当者経験年数・M&A資格・誠実さ面談での質疑応答・進行力
チーム体制財務・法務・税務との連携の有無外部パートナー含む支援体制

特に注意すべきは、「広告でうたっている実績」と「実際に担当する人物の力量」が乖離しているケース。
「大手だから安心」「成約件数が多いから優秀」という先入観は危険です。

面談時には、「過去に支援した中小企業の事例を教えてください」「売り手経営者からの紹介実績はありますか」といった質問を用意し、実績の質を見極めてください。

M&Aは“誰と組むか”がすべてです。
信頼できる伴走者を見つけることが、成功への第一歩となります。

失敗事例に学ぶ:原則を無視したM&Aの結末

どれほど高い理念や意志を持ってM&Aに臨んでも、「3つの原則」を無視したままでは、失敗の確率は飛躍的に高まります。
ここでは、実際に起きた2つのケーススタディを通じて、教訓を整理します。
どちらも“避けられた失敗”であり、読者自身のM&A準備にとって貴重な反面教師となるはずです。

ケーススタディ1:情報開示不足が招いた企業価値の毀損

ある老舗製造業が、後継者不在によりM&Aによる事業承継を決断しました。
取引先も多く財務体質も健全に見え、買い手候補との初期交渉も順調に進んでいました。

しかし、デューデリジェンスの終盤で、簿外債務(退職給付債務の未認識分)が発覚。
本来なら事前に精査・開示すべき内容が、社内でも正確に把握されていなかったのです。

結果として、当初5億円と見積もられていた企業価値は、4億円以下に減額される提示となり、経営者は苦渋の決断を迫られました。
買い手側は「信頼関係が崩れた」として条件交渉を一時中断し、最終的には当初よりも不利な条件で譲渡が成立。

このケースの教訓は明白です。
「情報を開示するのは買い手に有利になるから後回しに…」という発想が、かえって企業価値を毀損する原因になるのです。

透明性とは、“信頼”を売る行為に他なりません。
不利な情報ほど先出しする覚悟こそ、最終的に有利な立場を築く鍵となります。

ケーススタディ2:スケジュール遅延による買い手離脱

別のケースでは、年商15億円規模のIT企業が、戦略的売却を目的に複数の買い手と交渉を開始しました。
第一候補は上場企業のグループ会社で、好条件の意向表明(LOI)も得られていました。

しかし、その後の進行が問題でした。
売り手側の経営者が「社内稟議が整ってから」として契約書レビューや条件修正を先送りにした結果、1か月以上のスケジュール遅延が発生。

その間に、買い手側は他のM&A案件にリソースを割かざるを得なくなり、結局この案件から撤退しました。
残されたのは、条件の劣る別候補との交渉テーブル。

このケースは、「タイムマネジメントの不在」が致命傷になった例です。
M&A市場では、案件は“静かに競争”しているという現実を忘れてはなりません。

買い手は複数の案件を同時に検討しています。
“決断が早い売り手”に買い手が集中するのは、必然なのです。

どちらの事例も、今回ご紹介した3つの原則──透明性・利害調整・タイムマネジメント──が欠けていたことが原因でした。
逆に言えば、これらを早期に意識し、実務に落とし込むことで、こうした失敗を回避することは可能です。

トップアドバイザーからのメッセージ

複雑なプロセスを乗り切るための心構え

「M&Aに必要なのは、知識ではなく“視座”だと思います」。
そう語ったアドバイザーは、M&Aを単なる数字の取引ではなく、経営者にとっての「責任ある決断」だと強調していました。

M&Aのプロセスには、想像以上に多くの判断とプレッシャーが伴います。
買い手との交渉、社内外の調整、財務や法務の複雑な論点──一つひとつが経営判断を求めるものです。

そんなとき、「この決断は、自社の社員と顧客の未来を守るものか?」という視座を持てるかどうかが、最後までぶれない軸になります。

実際に、成約率の高い経営者には共通点があります。
それは、“売るためにM&Aをする”のではなく、“会社を守るためにM&Aを使う”という視点を持っていることです。

「私たちアドバイザーは、情報提供や交渉の支援はできますが、最終的な覚悟は経営者にしか持てません。
その覚悟を支えるのが、透明性・利害調整・タイムマネジメントという3つの実務原則です」

その言葉には、何百人もの経営者と対峙してきた実務家ならではの“重み”がありました。

原則を自社に根付かせる第一歩

では、記事で紹介した3つの原則を、実際に自社にどう活かしていけばよいのでしょうか?

アドバイザーは「完璧な準備をする必要はありません。まず一歩、誰かに話してみることから始まります」とアドバイスします。

以下のようなアクションを、明日から始めてみてください:

  • 自社の財務データや契約書類を棚卸しし、「見える化」してみる
  • 幹部や後継者と、「M&Aを前提にした将来像」を率直に話してみる
  • 独立系アドバイザーとの無料相談を通じて、プロの視点で自社を評価してもらう
  • 他社のM&A成功・失敗事例を読み、意思決定の視座を養う

「自社のことを本気で考える時間が、実は一番のリターンを生む」──
M&Aは、動き出すことで初めて見える景色があります。

あなたが動けば、未来は変えられます。

よくある質問(FAQ)

Q: 独立系アドバイザーと大手仲介会社の違いは何ですか?

A: 独立系は報酬の収益源が売り手側に集中しており、買い手との利益相反が起きにくい構造です。
また、成約件数よりも「案件の質」を重視する傾向があり、柔軟な対応が可能です。
一方、大手仲介会社は組織力や知名度が高く、案件規模やスピード感で優位に立つケースもあります。
目的と相性によって選定しましょう。

Q: デューデリジェンスで特に注意すべきポイントは?

A: 以下の3点がよく問題になります。

  • 簿外債務の存在(保証・未払税金・退職給付など)
  • 特定顧客への依存度(売上の5割以上を1社に依存など)
  • コンプライアンス体制の脆弱性(契約書管理・労務問題等)

初期の内部チェックリストで洗い出すことで、重大リスクの発見を未然に防げます。

Q: 仲介手数料の相場と交渉余地は?

A: レーマン方式が一般的で、5億円以下部分には5%、5億円超〜10億円未満には4%がかかるのが相場です。
ただし、成功報酬のみの契約や、段階的に報酬比率をスライドさせる交渉も可能です。
「最低報酬額」や「中途解約時のペナルティ」にも必ず目を通しましょう。

Q: 売却後の従業員処遇はどのように決めるべき?

A: 買い手とのPMI(統合作業)プランに明記しておくことが肝要です。
評価制度や雇用条件の継続・変更方針、希望退職制度の有無などを交渉時点で合意しておき、従業員説明会などで共有しましょう。
人材流出を防ぐための“心理的安心感”が、M&A成功のカギです。

Q: 狙い通りの買い手候補を見つけるコツは?

A: 以下の3点が成功確率を高めます。

  • 業界ネットワークや専門アドバイザーとの連携
  • 匿名ティーザー(概要書)の質と設計力
  • 自社の強みを“買い手目線”で翻訳できる資料づくり

「この会社となら組みたい」と思わせる戦略的情報発信が、理想の買い手との出会いを生みます。

まとめ

M&Aの成否を分ける鍵は、専門知識や資金力だけではありません。
本記事で取り上げた「透明性」「利害調整」「タイムマネジメント」という3つの原則は、まさに経営者自身がプロセスの主導権を握るために必要な“土台”です。

透明性を確保することで、信頼と誠実な交渉が生まれます。
利害調整に配慮することで、ステークホルダーの理解と協力を得られます。
タイムマネジメントを徹底することで、案件の競争力とスピードを維持できます。

取材を通じて私が改めて感じたのは、成功するM&Aには「準備と対話と覚悟」が揃っているということです。
失敗事例に共通するのは、「情報の出し惜しみ」「関係者の放置」「判断の遅れ」といった基本の欠如でした。

逆に言えば、たとえ初めてのM&Aであっても、原則を押さえて準備を進めれば、成功の確率は確実に上がります。

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この記事を書いた人

中小企業のM&A、特に5億円規模の取引において、高橋健一は独立系コンサルタントとして揺るぎない存在感を放っている。大手金融機関でのキャリアから独立し、現在は「M&A 5億の扉」の専門家として、売り手経営者の立場に立った情報発信と助言を行う。

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