M&A詐欺とは?手口の全貌から対策、相談先まで徹底解説

M&Aは、後継者問題の解決や事業成長の加速に有効な経営戦略です。
しかし、その裏では経営者の想いを踏みにじる悪質な「M&A詐欺」が横行しているのも事実です。
特に近年、中小企業をターゲットにした巧妙な手口が増加しており、中小企業庁も注意喚起を行っています。
本記事では、元大手金融機関のM&A担当で、現在は完全に中立な立場で経営者を支援するコンサルタント高橋健一が、実際にあった事例を基に詐欺の全手口を徹底解剖。
大切な会社と従業員、そして経営者自身の未来を守るための具体的な対策から、万が一の際の相談先まで、売り手の視点から分かりやすく解説します。
【この記事の結論】M&A詐欺から会社を守る5つのポイント
| 課題・疑問 | 対策・ポイント |
|---|---|
| どんな詐欺手口がある? | 「吸血型M&A」「代金未払い」「個人保証の未解除」「利益相反」「秘密保持義務違反」の5つが代表的。特に後継者不在の中小企業がターゲット |
| 悪質な業者をどう見分ける? | ①M&A支援機関登録制度への登録確認 ②実績と専門性の確認 ③明確な手数料体系の提示 を必ずチェック |
| 買い手企業の信頼性は? | 丁寧なデューデリジェンス(DD)を行う誠実な買い手を選ぶ。DDを省略する買い手は危険信号 |
| 危険な交渉態度は? | 「今決めないとこの話はなくなる」という急かし、「相場より高すぎる価格」は詐欺の典型的な手口 |
| 詐欺に遭わないために必ずすべきこと | ①複数の専門家に相談しセカンドオピニオンを得る ②弁護士と契約書を隅々まで確認 ③交渉の経緯をすべて記録に残す |

【事例で学ぶ】これがM&A詐欺の代表的な手口だ
M&A詐欺の手口は年々巧妙化していますが、その根底にある目的は「売り手から資産や資金を不当に奪う」ことです。
ここでは、実際に報道された事例も交えながら、代表的な手口を具体的に解説します。
買い手による詐欺:会社を乗っ取り資産を奪う「吸血型M&A」
近年、最も悪質とされるのが、会社を買収した直後にその会社の資産を根こそぎ奪い去る「吸血型M&A」と呼ばれる手口です。
事例:ルシアンホールディングス事件
2021年に設立された投資会社「ルシアンホールディングス」は、事業承継に悩む中小企業を次々と買収しました。 しかし、その実態は買収後に子会社となった企業の預金を親会社である自社口座に送金させ、資金を吸い上げるというものでした。 結果として、多くの買収先企業が運転資金を失い、倒産や営業停止に追い込まれ、元経営者には巨額の個人保証だけが残るという深刻な被害が多発しました。
参考: M&A仲介市場の信用を地に落とした「ルシアン事件」ざっくり解説!現金吸い上げ、経営者保証未解除…
なぜ、このような手口に騙されてしまうのでしょうか。
それは、後継者不在や業績不振に悩む経営者の「会社を存続させたい」「従業員の雇用を守りたい」という切実な想いにつけ込まれるからです。
「再生支援」などの甘い言葉を信じ、藁にもすがる思いで契約してしまった結果、大切な会社を乗っ取られてしまうのです。
買い手による詐欺:支払いを反故にする「代金未払い・分割払い停止」
M&Aの対価は一括で支払われるとは限りません。
分割払いや、一定期間後の業績に応じて支払額が確定するアーンアウト条項が用いられることもあります。
この支払い方法を悪用するのが、代金未払いの手口です。


具体的には、初回金のみを支払い、その後「表明保証違反があった」などと些細な理由をつけて、残代金の支払いを一方的に停止するケースです。
表明保証とは、売り手が買い手に対し、会社の財務状況や法務に関する情報が真実かつ正確であることを保証する契約条項のこと。
ここに曖昧な点があると、それを口実に支払いを拒否されるリスクがあります。
金融機関出身の私の経験から言えば、契約書に「いつまでに、いくらを、どのような方法で支払うのか」を明確に記載することはもちろん、「支払いが遅延した場合の違約金」や「表明保証違反の具体的な範囲」まで厳密に定めておくことが、自衛のために不可欠です。


買い手による詐欺:経営者個人を追い詰める「個人保証の未解除」
中小企業の経営者の多くは、金融機関からの借入に対して個人として連帯保証をしています。
M&Aを行う最大の目的の一つが、この「経営者保証の解除」であると言っても過言ではありません。
しかし、悪質な買い手は、M&A契約が成立し経営権が移転した後も、様々な理由をつけて個人保証の解除手続きを先延ばしにします。
その結果、会社を譲渡したにもかかわらず、元経営者は会社の借金の保証人であり続けるという最悪の事態に陥ります。
万が一、買収後の会社が倒産すれば、元経営者がその債務をすべて負うことになりかねません。
個人保証の解除は、M&Aの最終契約(クロージング)と同時に実行されるのが鉄則です。
契約書に「保証解除がM&A取引完了の絶対条件である」ことを明記し、金融機関とも事前に交渉を進めておくことが極めて重要です。


仲介業者による詐欺:売り手を不利な条件に誘導する「利益相反」
M&A仲介会社は、売り手と買い手の「双方」から手数料を得るビジネスモデルが一般的です。
この構造が「利益相反」を生むリスクをはらんでいます。
利益相反とは、一方の利益がもう一方の不利益になる状況を指します。
仲介会社にとって、一度きりの取引になる可能性が高い売り手よりも、今後もM&Aを繰り返す可能性がある買い手(特に投資会社など)の方が「リピート客」として魅力的です。
そのため、仲介会社が買い手と裏で通じ、買い手に有利な(つまり売り手に不利な)条件で取引をまとめようとするケースが後を絶ちません。
中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」では、仲介者が利益相反のリスクについて情報開示することを求めていますが、最終的に判断するのは経営者自身です。
仲介会社が特定の買い手を不自然に推してきたり、交渉を急かしたりする場合は、利益相反が働いている可能性を疑うべきです。


仲介業者による詐欺:情報を漏洩させる「秘密保持義務違反」
M&Aを検討している事実は、会社の存続に関わるトップシークレットです。
この情報が従業員や取引先に漏れれば、組織内に動揺が走り、事業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
通常、M&Aの交渉を始める前には、関係者間で秘密保持契約(NDA)を締結します。
しかし、悪質な業者は意図的に情報をリークし、社内外の混乱を引き起こすことがあります。
そして、焦った経営者に対して「早く決めないと大変なことになる」とプレッシャーをかけ、不利な条件での契約を強引に迫るのです。
情報管理の徹底はM&Aの基本中の基本です。
信頼できる専門家は、情報管理の重要性を熟知しており、厳格な手順を踏んで交渉を進めます。
安易な情報開示を求めるような業者とは、決して関わってはいけません。


【元銀行員が解説】悪質なM&A業者・買い手の見分け方
巧妙な詐欺から会社を守るためには、取引相手が信頼に足るかを見極める「目」が重要です。
ここでは、私が金融機関で数多くの企業を見てきた経験から、悪質な業者や買い手を見分けるための具体的なチェックポイントを解説します。
仲介会社のチェックポイント:実績・登録・手数料体系
信頼できる仲介会社かどうかを判断するには、以下の3点を確認しましょう。
| チェック項目 | 確認するポイント |
|---|---|
| M&A支援機関登録制度への登録 | 中小企業庁が創設した制度で、一定の基準を満たした支援機関が登録されています。 登録されていることは、信頼性を測る一つの目安になります。中小企業庁の公式サイトで公表されているため、必ず確認しましょう。 |
| 実績と専門性 | 会社の公式サイトで過去の成約実績を確認します。特に、自社と同じ業種や規模のM&A実績が豊富かどうかは重要な判断材料です。担当者が持つ経験や知見についても、具体的な質問を投げかけてみましょう。 |
| 明確な手数料体系 | 手数料の内訳(相談料、着手金、中間金、成功報酬など)と、それぞれの支払いタイミングが明確に提示されているかを確認します。 特に成功報酬の計算で用いられる「レーマン方式」は、計算の基準となる「取引金額」の定義が業者によって異なるため注意が必要です。 |
【高橋の視点】レーマン方式の罠
レーマン方式は一般的な報酬体系ですが、計算基準が「株式価値」なのか、有利子負債を含む「企業価値」なのか、あるいは負債総額を含む「移動総資産」なのかで、支払う手数料は大きく変わります。 契約前に、どの基準で計算されるのかを書面で明確にしてもらうことが必須です。
買い手企業のチェックポイント:デューデリジェンス(DD)の姿勢
デューデリジェンス(DD)とは、買い手が売り手企業の価値やリスクを詳細に調査するプロセスです。
このDDへの姿勢に、買い手の誠実さが表れます。
誠実な買い手は、買収後のリスクを正確に把握するために、時間とコストをかけてでも丁寧なDDを行います。
反対に、DDを極端に省略しようとしたり、異常に短期間で済ませようとしたりする買い手は危険信号です。
これは、会社の将来を真剣に考えているのではなく、単に資産を奪うことだけが目的である可能性を示唆しています。
また、売り手側も買い手の実態を調査する「リバースDD」が重要です。
相手企業の登記情報や財務状況、過去の訴訟歴などを調査し、本当に信頼できる相手なのかを冷静に判断する必要があります。


交渉態度のチェックポイント:「急かす」「過度に好条件」は危険信号
詐欺師が使う常套手段の一つが、相手から冷静な判断力を奪うことです。
- 「今決めないと、この話はなくなりますよ」
- 「他にも買いたい会社が待っています」
このように契約を急がせるのは、典型的な危険信号です。
M&Aは会社の未来を左右する極めて重要な経営判断であり、焦って決断すべきではありません。
毅然とした態度で「検討する時間が必要です」と伝えましょう。
また、「相場よりも明らかに高すぎる買収価格」など、過度に好条件な提案にも注意が必要です。
これは、まず経営者の関心を引きつけ、冷静な判断を失わせるための罠である可能性があります。
甘い話には必ず裏があると考え、慎重に交渉を進めるべきです。
M&A詐欺に遭わないための5つの鉄則
悪質な手口や業者を見抜く知識を身につけた上で、次に重要になるのが具体的な防御策です。
ここでは、M&A詐欺に遭わないために経営者が必ず守るべき「5つの鉄則」を解説します。
鉄則1:複数の専門家に相談し、セカンドオピニオンを得る
M&Aのプロセスでは、1社の仲介会社や1人のアドバイザーの意見だけを鵜呑みにするのは非常に危険です。
必ず、利害関係のない第三者から客観的な意見(セカンドオピニオン)を求めましょう。
例えば、仲介会社とは別に、M&Aに精通した弁護士や会計士、あるいは私のような独立系のコンサルタントに相談することで、提示されている条件が妥当なのか、契約書に不利な条項が隠されていないかなど、多角的な視点からチェックすることができます。
セカンドオピニオンは、不利な取引から会社を守るための生命線です。


鉄則2:契約書は弁護士と共に隅々まで確認する
M&Aに関する契約書は、専門用語が多く非常に複雑です。
内容を十分に理解しないまま署名・捺印することは絶対に避けてください。
ここで注意すべきは、M&A仲介会社は契約書の「作成支援」はできても、法的な助言やレビュー(リーガルチェック)は弁護士法に抵触するため行えないという点です。
必ず、M&Aの実績が豊富な弁護士に依頼し、すべての条項について納得がいくまで説明を受けてください。
特に以下の条項は、将来のトラブルを防ぐために極めて重要です。
- 譲渡代金の支払い条件(金額、時期、方法)
- 経営者個人保証の解除に関する条項
- 表明保証の範囲と違反した場合のペナルティ
- 秘密保持義務の範囲と期間
鉄則3:安易に専任媒介契約を結ばない
専任媒介契約とは、特定の1社にのみ仲介を依頼する契約形態です。
この契約を結ぶと、契約期間中は他の仲介会社に相談したり、自分で見つけてきた相手と交渉したりすることが原則できなくなります。
悪質な業者は、この専任契約を悪用し、売り手を自社のコントロール下に置いて不利な条件を飲ませようとすることがあります。
契約を結ぶ前に、その仲介会社が本当に信頼できるのかを慎重に見極める必要があります。
また、契約内容、特に「テール条項」には注意が必要です。
テール条項とは、契約終了後も一定期間内にM&Aが成立した場合、その仲介会社に成功報酬を支払わなければならないという規定です。
この期間が不当に長くないか、対象となる相手方の範囲が広すぎないかなど、契約書の内容を弁護士としっかり確認しましょう。


鉄則4:交渉の経緯をすべて記録に残す
万が一のトラブルに備え、交渉のプロセスはすべて記録として残しておくことが重要です。
- メールでのやり取りはすべて保存する
- 電話での重要な会話は、内容を要約して相手にメールで送付し、認識の齟齬がないか確認する
- 面談や会議では、必ず議事録を作成し、双方で署名・捺印する
これらの記録は、後に「言った」「言わない」の水掛け論になるのを防ぎ、トラブルが訴訟に発展した際には自らを守るための重要な証拠となります。
鉄則5:M&Aの目的と譲れない条件を明確にする
悪質な業者のペースに巻き込まれないための最大の防御策は、経営者自身が「M&Aの軸」をしっかりと持つことです。
- 何のためにM&Aを行うのか?(後継者問題の解決、事業の成長、創業者利益の確保など)
- 従業員の雇用維持や取引先との関係維持など、絶対に譲れない条件は何か?
- 希望する譲渡価格の下限はいくらか?
これらの目的や条件をあらかじめ明確にし、交渉の場でも安易に妥協しない姿勢を貫くことが重要です。
経営者としての強い意志が、相手の不当な要求を退ける力になります。
【中立解説】M&A詐欺やトラブルの相談先一覧
もしM&Aの過程で不審な点を感じたり、実際にトラブルに巻き込まれてしまったりした場合は、一人で抱え込まずに速やかに専門機関に相談してください。
ここでは、中立的な立場から相談できる主な窓口を紹介します。
弁護士・法律事務所
契約内容の確認や法的リスクの判断、トラブル発生時の代理交渉など、法務面で最も頼りになるのが弁護士です。
M&Aは専門性が高い分野であるため、必ず「M&Aの実績が豊富な」弁護士を選ぶことが重要です。
初回の相談は無料で行っている事務所も多いため、まずは気軽に問い合わせてみましょう。
事業承継・引継ぎ支援センター
全国47都道府県に設置されている、国が管轄する公的な相談窓口です。
中立的な立場から、事業承継やM&Aに関する幅広い相談に無料で応じてくれます。
特定の業者を斡旋される心配がなく、安心してM&Aの第一歩を踏み出すための相談先として非常に有効です。
また、民間のM&A業者と話を進めている場合のセカンドオピニオンを聞く場としても活用できます。
M&A支援機関協会(MAAA)などの業界団体
M&A支援機関協会(MAAA)は、M&A業界の健全な発展を目指して設立された自主規制団体です。
協会には苦情相談窓口が設置されており、登録されている支援機関との間でトラブルが発生した場合に相談することができます。
業界団体に相談することで、当事者間での解決が困難な場合に、中立的な立場からの助言や対応を期待できます。
警察
代金を支払われずに持ち逃げされたなど、明らかに詐欺罪や横領罪といった犯罪行為に該当する悪質なケースでは、警察への相談が最終手段となります。
被害届の提出や刑事告訴を検討する際は、まず弁護士に相談し、これまでの経緯や証拠を整理した上で、連携して手続きを進めるのが一般的です。
よくある質問(FAQ)
Q: M&Aの相談はどこから始めるのが安全ですか?
A: まずは国が設置している「事業承継・引継ぎ支援センター」のような公的機関で、基本的な情報収集や相談から始めることをお勧めします。 そこで全体像を掴んだ上で、複数の民間の専門家(M&A仲介会社、FA、独立系コンサルタントなど)に話を聞き、それぞれの特徴や提案内容を比較検討するのが最も安全な進め方です。最初から1社に絞らず、多角的に情報を集めることが重要です。
Q: 小さな会社でもM&A詐欺のターゲットになりますか?
A: はい、むしろ後継者不在、情報格差、M&Aの経験不足といった弱みを抱える中小企業こそ、詐欺の主なターゲットになっています。 会社の規模に関わらず、すべての経営者が「自社も狙われる可能性がある」という当事者意識を持つべきです。
Q: 仲介会社から「すぐに決断しないとこの話はなくなる」と急かされています。どうすればいいですか?
A: それは悪質な業者が相手の冷静な判断を奪うために使う典型的な手口です。 M&Aは会社の未来を決める重要な決断であり、焦って決めるべきではありません。「少し考えさせてください」と毅然とした態度で伝え、時間をおいて冷静に判断するか、別の専門家にセカンドオピニオンを求めるべきです。
Q: 契約書の内容が専門的でよく分かりません。
A: 理解できないまま契約書にサインするのは絶対に避けてください。M&A仲介会社は契約内容の説明はできますが、法的な助言(リーガルチェック)は法律上できません。必ずM&Aの実績が豊富な弁護士に依頼し、すべての条項についてリスクや意味を納得がいくまで説明を受けてください。
Q: 成功報酬が「レーマン方式」と言われましたが、注意点はありますか?
A: レーマン方式は一般的な報酬体系ですが、最も注意すべきは「報酬の計算基準」です。 計算の基準となる「取引金額」の定義が、単なる株式の売買価格なのか、有利子負債を含む金額なのか、あるいは総資産なのかによって、支払う報酬額が数倍に膨れ上がる可能性があります。 契約前に、報酬の計算基準と具体的な計算式を必ず書面で確認することが不可欠です。
まとめ
M&A詐欺の手口は年々巧妙化していますが、その多くは経営者の「情報不足」と「焦り」につけ込んだものです。
本記事で解説した手口と対策を理解し、「情報を武器」にすれば、リスクの大部分は回避できます。
最も重要なのは、決して一人で判断せず、信頼できる専門家をパートナーに選ぶことです。
その際、特定の立場に偏らないセカンドオピニオンがあなたの会社を守る生命線となります。
M&Aは、正しく進めれば会社と従業員の未来を明るく照らす強力な選択肢です。
この記事が、経営者の皆様が納得のいくM&Aを実現するための一助となれば幸いです。


経験豊富な代表が直接サポート
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