M&Aで不動産はどう扱う?個人所有の事業用不動産を有利な条件で売却・賃貸する方法

M&Aを検討する経営者の多くが、避けては通れない複雑な問題があります。
それは、社長個人が所有し、事業に使っている工場やオフィスといった「事業用不動産」の扱いです。

これは単なる資産整理の問題ではありません。
不動産の扱い方一つで、M&Aの取引価額や交渉の行方、ひいては経営者ご自身のM&A後のライフプランまでが大きく変わってしまう、極めて重要な経営判断なのです。

当記事では、売り手である経営者様の視点に立ち、このM&Aと不動産の問題を解決するための具体的な選択肢と、あなたの会社にとって最適な答えを導き出すための「判断軸」を徹底解説します。

【この記事の結論】M&Aでの個人不動産の扱いは2択

M&A(会社の売却)を進める上で、社長個人が所有する事業用不動産の扱いは、「売却」か「賃貸」の2択です。
どちらを選ぶかで、M&Aの交渉や経営者の手残り額、M&A後の人生設計が大きく変わります。

以下の比較表で、あなたにとって最適な選択肢を見極めましょう。

観点選択肢①:売却する選択肢②:賃貸する
お金の入り方株式とは別に、まとまった現金を一括で確保できる。M&A後も、安定した家賃収入を継続的に得られる。
M&A後の関係買い手と完全に離れられるため、関係がシンプルになる。貸主・借主として関係が続くため、将来の交渉リスクがある。
どんな人向け?「完全に引退したい」「新規事業の資金が欲しい」人向け。「安定収入が欲しい」「資産として不動産を残したい」人向け。
記事執筆者:高橋健一
中小企業のM&A、特に5億円規模の取引において、高橋健一は独立系コンサルタントとして揺るぎない存在感を放っている。大手金融機関でのキャリアから独立し、現在は「M&A 5億の扉」の専門家として、売り手経営者の立場に立った情報発信と助言を行う。
 
監修兼編集者:谷口友保
株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリー
1971年埼玉県上尾市生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業、同年公認会計士2次試験合格。翌年同学部経済学科を卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。1996年にM&A専門の株式会社レコフへ。2007年、株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリーを設立し代表取締役に就任。
目次

なぜM&Aで「社長個人の不動産」が最重要論点になるのか?

まず、なぜこの「社長個人の不動産」が、M&Aの交渉においてこれほどまでに重要な論点となるのでしょうか?
その背景には、多くの中小企業が抱える特有の事情があります。

中小企業に多い「法人と個人の資産の混在」とその背景

多くの中小企業、特に歴史のある会社では、法人と個人の資産が明確に分離されていないケースが珍しくありません。
私が金融機関で法人融資を担当していた頃も、会社の事業資金を借り入れる際に、社長個人が所有する不動産を担保として提供し、個人保証を付けるのが当たり前でした。

創業時に個人資産を投じて事業を始め、公私混同と言われながらも一心同体で会社を成長させてきた。
これは、多くの経営者にとってごく自然な姿でしょう。
しかし、この「一心同体」の状態が、M&Aという第三者が関わる場面で、買い手側から見ると大きなリスク要因として映ってしまうのです。

買い手企業が懸念するリスクとは?

では、買い手は具体的に何を懸念するのでしょうか?
最大の懸念は、「事業の継続性」と「M&A後の収益性」です。

例えば、M&A後も社長個人が不動産を所有し続ける場合、買い手は「もし将来、社長の気が変わって『不動産を貸さない』と言われたら事業が止まってしまうのではないか」「法外な賃料を請求されるリスクはないか」といった懸念を抱きます。

また、M&A後に賃貸借契約を結ぶ場合、その賃料は買い手にとって新たなコストとなり、事業の収益性を圧迫します。
こうしたリスクや不確定要素は、M&Aの交渉を複雑化させ、時には破談の原因にすらなり得るのです。

M&Aの成否と経営者の手残りを左右する重要性

不動産の扱い方は、M&Aの取引価格そのものにも直接影響します。
例えば、不動産を会社に売却してから会社ごと売却するのか、それともM&Aの取引と同時に買い手に直接売却するのか。
このスキームの違いだけで、税金の額が大きく変わり、最終的に経営者の手元に残る金額〈=手残り〉も変動します。

さらに、経営者ご自身の視点では、不動産を売却してまとまった現金を得るのか、あるいは賃貸してM&A後も安定した収入源を確保するのかは、その後のライフプランを決定づける重要な選択です。
このように、社長個人の不動産問題は、M&Aの成否と経営者の人生の両方を左右する、まさに最重要論点と言えるのです。

【3つの選択肢】M&Aにおける個人所有不動産の扱い方と比較

では、具体的にどのような選択肢があるのでしょうか?
個人所有の事業用不動産の扱い方は、大きく分けて3つに整理できます。
それぞれの特徴を理解し、全体像を掴むことが第一歩です。

選択肢1:不動産を「売却」する

これは、M&Aのタイミングで不動産も手放す方法です。
売却先としては、

  1. M&Aの前にご自身の会社に売却する
  2. M&Aの取引と同時に買い手企業に直接売却する

という2つのパターンが考えられます。
いずれにせよ、会社の株式譲渡代金とは別に、不動産の売却代金としてまとまった現金を一度に得られるのが最大の特徴です。

選択肢2:不動産を「賃貸」する

これは、M&A後もご自身が不動産のオーナーであり続け、新しい株主となった買い手企業にその不動産を貸し出す方法です。
いわゆる「オーナーチェンジ」と呼ばれる形態です。
M&Aによって会社の経営権は手放しますが、家賃収入という形で、継続的かつ安定的な収入を確保できるのが特徴です。

選択肢3:不動産をM&Aの対象外とし「現状維持」する

これは、不動産の売買も賃貸借契約の締結も行わず、M&A後もこれまで通り「個人の不動産を会社が無償もしくは格安で使っている」状態を維持するパターンです。

一見シンプルに見えますが、買い手との関係性が非常に曖昧になり、将来的なトラブルのリスクを抱え込むことになるため、基本的には推奨されない選択肢です。
税務上の問題が生じる可能性も高く、避けるべきだと私は考えています。

メリット・デメリット早わかり比較表

これら3つの選択肢を、経営者の方が気になるであろうポイントで比較してみましょう。

観点選択肢1:売却選択肢2:賃貸選択肢3:現状維持
経営者の手残り◎ まとまった現金を一括で確保△ 継続的な収入× 将来リスク大
M&A後の収入× なし◎ 安定した家賃収入△ 不安定・リスクあり
手続きの煩雑さ△ 売買契約・登記などが必要△ 賃貸借契約の締結が必要〇 手続きは少ない
税金△ 譲渡所得税がかかる〇 不動産所得として課税× 税務リスクが高い
交渉の難易度△ 価格交渉が論点になる△ 賃料・契約条件の交渉が論点になる× 関係性が曖昧で最も難しい
M&A後の関係性◎ シンプル(完全に離れられる)△ 貸主・借主として関係が続く× トラブルの温床になりやすい

この表からも分かる通り、現実的な選択肢は「売却」か「賃貸」のいずれかです。
次章からは、この2つの選択肢について、さらに深く掘り下げていきましょう。

選択肢1:不動産を「売却」するケースの深掘り解説

M&Aと同時に不動産も売却し、すべてを現金化する方法は、非常に分かりやすい選択肢です。
では、そのメリット・デメリットや税金について、詳しく見ていきましょう。

メリット:譲渡対価を一括で得られ、M&A後の関係性がシンプルになる

最大のメリットは、M&Aによる株式の売却益と合わせて、不動産の売却代金という大きな現金を一括で確保できる点です。
これにより、リタイア後の生活設計を盤石なものにしたり、あるいはその資金を元手に新たな事業へ挑戦したりと、資金使途の自由度が格段に高まります。

また、買い手との間に賃貸借関係といった継続的な関わりが一切残らないため、「M&Aを機に、会社の経営からは完全に離れたい」とお考えの経営者にとっては、最も精神的にすっきりする選択肢と言えるでしょう。

デメリット:M&A後の継続的な収入源にはならない

当然ながら、不動産を手放すため、家賃収入のようなインカムゲイン〈=継続的に入ってくる収益〉は将来にわたって得られなくなります。
また、売却価格の算定が交渉の大きな焦点となります。

客観的な不動産鑑定評価が必要となり、その費用がかかるほか、買い手側が提示してくる評価額の妥当性を見極めるための専門知識も求められます。

税金はどうなる?売却先による課税の違い

個人が不動産を売却して利益〈=譲渡所得〉が出た場合、その利益に対して所得税と住民税が課税されます。

ここで極めて重要なのが、不動産の「所有期間」です。
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかどうかで、税率が大きく変わります。

  • 長期譲渡所得(所有期間5年超): 税率 約20% (所得税15%+住民税5%+復興特別所得税)
  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下): 税率 約39% (所得税30%+住民税9%+復興特別所得税)

税率が倍近く違うため、ご自身の不動産の所有期間の確認は必須です。
また、ご自身の会社に売却する場合、必ず「時価」で取引しなければなりません。

もし時価より著しく低い価格で売買すると、税務署から「時価で売却したもの」とみなされ、差額に対して思わぬ課税を受けるリスクがありますので、細心の注意が必要です。

高橋氏の視点:売却価格の交渉を有利に進めるための準備

私がM&Aの現場でいつも経営者の方にお伝えしているのは、「交渉の主導権を握るには、情報で相手を上回ることが不可欠」ということです。

不動産の売却交渉においては、M&Aの交渉が本格化する前に、売り手側で第三者である不動産鑑定士に依頼し、「不動産鑑定評価書」を取得しておくことを強くお勧めします。
これは、交渉の拠り所となる客観的な価格の根拠を手に入れるためです。

買い手側も独自の評価を行ってきますが、先にこちらが信頼性の高い評価書を提示することで、不当に安い価格を提示されることを防ぎ、交渉の基準値を我々が設定できるのです。
場合によっては複数の鑑定士から意見を取る「セカンドオピニオン」も有効な戦略です。

選択肢2:不動産を「賃貸」するケースの深掘り解説

次に、M&A後も不動産のオーナーであり続け、買い手企業に貸し出す選択肢を見ていきましょう。
これは、経営者のM&A後のライフプランに大きく関わる選択です。

メリット:M&A後も継続的かつ安定的な収入を確保できる

最大の魅力は、経営の一線から退いた後も、年金のように毎月安定した家賃収入を得られることです。
特に、会社の成長と共に歩んできた思い入れのある不動産を手放すことなく、資産として持ち続けられる点に魅力を感じる経営者も少なくありません。

M&Aで得た売却益を「一時金」、家賃収入を「終身年金」と捉えれば、リタイア後の生活基盤をより強固なものにできるでしょう。

デメリット:買い手との関係が継続し、契約内容が将来のリスクになり得る

一方で、不動産の貸主と借主として、M&A後も買い手企業との関係が続くことになります。
これが将来的なトラブルの火種になる可能性は否定できません。
例えば、将来の賃料改定、大規模修繕の際の費用負担、契約の更新や解除などを巡って、意見が対立するリスクがあります。

また、買い手側から見れば、毎月の賃料支払いはコストです。
そのため、M&Aの交渉段階で、賃料負担を嫌気した買い手から会社全体の買収価格を引き下げるよう要求される可能性も考慮しておく必要があります。

賃料設定の考え方と交渉のポイント

では、賃料はどのように設定すればよいのでしょうか?
基本は、その不動産の周辺エリアにある類似物件の賃料相場を基準に、客観的な根拠を持って算出することです。

不動産会社などに依頼して、近隣の賃料データ〈=レントロール〉を取り寄せ、自社の物件の立地や築年数、規模などを考慮して適正な賃料を割り出します。
この客観的なデータが、買い手との交渉における強力な武器になります。

買い手から減額交渉をされた場合でも、「この地域の相場から見て、この賃料は妥当な水準です」と毅然と主張できるからです。

高橋氏の視点:失敗しない賃貸借契約書の作り方

賃貸を選択する場合、その成否は「賃貸借契約書」の内容で9割決まると言っても過言ではありません。
ある老舗企業のケースでは、契約内容が曖昧だったために、M&Aの数年後に発生した大規模修繕の費用負担を巡って買い手と裁判沙汰になってしまいました。

このような事態を避けるため、契約書には以下の条項を必ず明確に盛り込むべきです。

  • 修繕義務の範囲: 通常の修繕と大規模修繕で、貸主と借主のどちらがどこまで費用を負担するのか。
  • 中途解約条項: 借主(買い手)が契約期間の途中で解約する場合の違約金などのルール。
  • 賃料改定のルール: 何年ごとに、どのような指標(例:固定資産税や物価の変動)に基づいて賃料を見直すのか。
  • 契約形態: 更新がなく、期間満了で確実に契約が終了する「定期建物賃貸借契約」 を選択することも、将来の計画を立てやすくするために有効です。

これらの専門的な内容は、必ずM&Aや不動産に強い弁護士に相談し、将来のリスクを徹底的に洗い出した契約書を作成してください。

【高橋流・判断軸】あなたの会社に最適な選択肢を見極める3つのポイント

売却と賃貸、それぞれの特徴をご理解いただけたかと思います。
では、最終的にあなたの会社にとってどちらが最適なのか。
その答えを導き出すために、私がいつもクライアントである経営者の方にお伝えしている「3つの判断軸」をご紹介します。

Point1:M&A後のご自身の「ライフプラン」から考える

まず最も重要なのは、経営者であるあなたご自身が、M&A後にどのような人生を送りたいかです。
これは、M&Aの目的そのものと言い換えられます。

  • 【売却が有利なケース】: 「M&Aで得た資金で世界一周旅行がしたい」「全く新しい事業に挑戦するための軍資金が欲しい」「会社との関係は一切断ち切り、完全に自由になりたい」
  • 【賃貸が有利なケース】: 「派手な生活は望まないが、毎月安定した収入で安心して暮らしたい」「子供や孫に資産としてこの不動産を残したい」「不動産の管理自体は苦にならない」

このように、ご自身の将来像から逆算して考えることで、おのずと選択肢の優先順位が見えてきます。

Point2:買い手候補の「ニーズと財務状況」から考える

次に、相手である買い手候補の状況を冷静に分析します。
買い手がどのような企業かによって、最適な選択は変わります。

  • 【売却が有利なケース】: 買い手が不動産も含めて自社資産として保有したいと強く望んでいる場合や、不動産を担保に新たな資金調達を計画している場合。
  • 【賃貸が有利なケース】: 買い手が「初期投資はなるべく抑えたい」と考えているスタートアップ企業や、財務的に賃料負担を十分に許容できる体力のある大手企業の場合。

買い手の意向を無視してこちらの希望だけを押し付けても、交渉はまとまりません。
相手のニーズを汲み取り、交渉戦略を立てることが重要です。

Point3:不動産そのものの「資産価値と収益性」から考える

最後に、対象となる不動産そのものが持つポテンシャルを評価します。

  • 【賃貸が有利なケース】: 駅前の好立地で将来的な地価上昇が見込める、周辺エリアで再開発計画があるなど、不動産そのものの資産価値が高い、あるいは今後上がることが期待できる場合。
  • 【売却が有利なケース】: その事業でしか使えない特殊な工場や、汎用性の低い地方の物件など、その買い手以外に借り手や買い手が見つかりにくい場合。この場合は、M&Aという絶好の機会を逃さずに売却する方が賢明です。

この3つのポイントを総合的に検討し、ご自身の状況に当てはめてみることで、より納得感のある意思決定ができるはずです。

不動産の価値を最大化する交渉術と「専門家選び」の極意

最適な選択肢が見えてきたら、次はいかにしてその価値を最大化するか、という交渉のステージに移ります。
ここで失敗しないために、絶対に押さえておくべきポイントをお伝えします。

交渉の主導権を握るための事前準備とは

繰り返しになりますが、交渉の鍵は「事前準備」にあります。
買い手から具体的な提案を受ける前に、こちら側で先手を打つのです。

  • 売却の場合: 信頼できる不動産鑑定士による「不動産鑑定評価書」を取得する。
  • 賃貸の場合: 周辺の賃料相場を調査し、希望する賃料と契約条件の「素案」を作成しておく。

これらの客観的な資料を準備しておくことで、交渉の場で感情論や根拠のない値引き要求を排し、論理的で建設的な話し合いを進めることができます。
情報で優位に立つことこそ、交渉を有利に進めるための最大の秘訣です。

M&A仲介会社、FA、税理士、不動産鑑定士…誰に何を相談すべきか?

不動産が絡むM&Aは、様々な専門家の知識が必要となる総力戦です。
それぞれの専門家の役割を正しく理解し、適切に活用することが成功の鍵を握ります。

  • M&A仲介会社/FA: M&Aプロセス全体の司令塔。交渉戦略の立案や買い手候補とのコミュニケーションを担う。
  • 税理士: 不動産の売却・賃貸に伴う税金のシミュレーションや、最も税負担が軽くなるスキームの提案を担う。
  • 不動産鑑定士: 不動産の客観的な価値を評価する専門家。鑑定評価書を作成する。
  • 弁護士: 不動産売買契約書や賃貸借契約書の作成・リーガルチェックを担う。

M&A仲介会社だけにすべてを任せるのではなく、必要に応じて各分野の専門家に直接相談することが重要です。

高橋氏の提言:セカンドオピニオンの重要性

ここで私が特に強調したいのは、セカンドオピニオンの重要性です。
例えば、M&A仲介会社が紹介する不動産鑑定士の評価額が、本当に中立的で妥当なものなのか。
あるいは、顧問税理士がM&Aの税務に本当に精通しているのか。
特定の専門家の意見だけに依存するのは、非常に危険です。

私のような独立系のコンサルタントや、別の専門家にも意見を求めることで、より多角的で客観的な視点から物事を判断でき、不利な条件で契約してしまうリスクを大幅に減らすことができます。
少しの費用と手間を惜しまないことが、最終的に数千万円、数億円という大きな差を生むのです。

よくある質問(FAQ)

Q: M&Aにおける不動産の評価額はどのように決まるのですか?

A: 主に「原価法(同じものを今建てたらいくらか)」「取引事例比較法(近隣の売買事例との比較)」「収益還元法(その不動産が生み出す収益から価値を算出)」の3つの手法で総合的に評価されます。
M&Aの文脈では、特に買い手がその不動産を事業でどう活用するか(収益性)が重視されるため、「収益還元法」が大きな判断材料になる傾向があります。

正確な価値を把握するため、第三者である不動産鑑定士による評価書を取得することが極めて重要です。

Q: 賃貸する場合の適正な家賃はどのように設定すればよいですか?

A: 近隣の類似物件の賃料相場(レントロール)を参考に算出するのが基本です。
不動産会社や不動産鑑定士に相談し、客観的なデータに基づいた賃料を算出することが、買い手とのスムーズな交渉につながります。安易な友情価格ではなく、第三者が見ても納得できる価格設定を心がけてください。

Q: 不動産を売却した場合の税金は、おおよそどれくらいかかりますか?

A: 個人の場合、不動産の所有期間が売却した年の1月1日時点で5年を超えるかどうかで税率が大きく変わります。
5年超の「長期譲渡所得」であれば所得税・住民税合わせて約20%ですが、5年以下の「短期譲渡所得」だと約39%になります。

正確な税額は、取得費や譲渡費用など個々の状況によって変わるため、必ず税理士に試算を依頼してください。

Q: 会社名義の不動産と個人名義の不動産が混在している場合はどうすればよいですか?

A: M&Aの前に、事業に必要な資産とそうでない資産を明確に整理(分離)することが強く推奨されます。
事業に関係のない個人利用の不動産などは、M&Aの対象から外し、事前にオーナーが買い取る、あるいは会社分割で別会社に移すなどの対応が必要です。資産の整理は、買い手にとっての魅力を高めることにも繋がります。

Q: M&Aの交渉中に、買い手から不動産の価格や賃料について厳しい要求をされたらどうすればよいですか?

A: まずは、事前に準備した客観的なデータ(不動産鑑定評価書や近隣の賃料相場データ)を提示し、冷静に交渉することが重要です。
要求が一方的で妥当性に欠ける場合は、安易に妥協せず、M&Aアドバイザーなどの専門家を交えて毅然と対応すべきです。

M&Aは対等なパートナー選びです。場合によっては、その買い手とは縁がなかったと判断し、他の買い手候補を探すという選択肢も常に視野に入れておきましょう。

まとめ

M&Aにおける個人所有の事業用不動産の扱いは、単一の正解がない、まさに経営者それぞれの状況に応じた判断が求められる複雑な問題です。
重要なのは、売却と賃貸それぞれのメリット・デメリットを正しく理解した上で、

  1. ご自身のM&A後のライフプラン
  2. 買い手候補の状況
  3. 不動産そのものの価値

という3つの視点から、総合的に判断することです。

そして、その判断と交渉を成功に導くためには、M&A仲介会社だけでなく、不動産鑑定士や税理士、弁護士といった各分野の専門家の知見を、適切なタイミングで活用することが不可欠です。

本記事で解説した「判断軸」と「専門家の活用法」が、あなたの会社とあなた自身の未来にとって、最も納得感のある選択をするための一助となれば、これに勝る喜びはありません。

信頼できるM&Aパートナーをお探しの方へ

M&Aは経営者にとって一生に一度の重要な意思決定です。成功のためには、豊富な経験と確かな実績を持つ信頼できるパートナーの存在が不可欠です。

株式会社M&Aコーポレート・アドバイザリーの谷口友保代表は、東京大学経済学部卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)、M&A専門コンサルティング会社での豊富な経験を経て、2007年に同社を設立。代表者が全案件を直接担当する体制により、一貫した高品質なサービスを提供しています。

同社では、企業価値評価から交渉戦略の立案、クロージングまでを総合的にサポート。中堅・中小企業のM&Aにおいて、経営者に寄り添った仲介サービスで数多くの成功実績を積み重ねています。

M&Aをご検討の経営者の方は、ぜひ無料相談をご利用ください。代表者が直接対応し、貴社の状況に応じた具体的なアドバイスを提供いたします。

※本記事は情報提供を目的としており、特定のサービスの推奨を行うものではありません。M&Aに関する意思決定は、ご自身の状況に応じて慎重にご判断ください。

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